最近特に、高齢者の事故の報道を見聞きすることが多くなったように感じる。
例えば、「高齢者の道路の逆走」や「ブレーキとアクセルの踏み間違え」などが特に多いようで、特にショッキングだったのは、2019年4月に東京池袋で発生した事故だ。
この事故は、高齢運転者が運転する車が暴走し、歩行者などを次々にはね、自転車に乗っていた親子2人が死亡したほか、9人が重軽傷を負ったというものだ。
この事故以外にも、多くの痛ましい事故が後を絶たず、今や社会問題といっても良いかもしれない。
車は、使う人によっては凶器にもなってしまう事から、運転する人の運転能力などが問われ、特に高齢者は、加齢による身体的な能力の衰えや認知機能の低下により、高齢者の運転は危険だとして、運転免許証の自主返納が推奨されているが、なかなか自主返納が進まないと話題になっている。
ここでは、なぜ高齢者の運転免許証の自主返納が進まないのか、その背景について見ていきたい。
高齢運転者の交通事故の状況
高齢運転者の交通事故が増えているとといっても、どの様な事故が増えているのかが分からなければ、具体的な対策なども見えてこないだろう。
一緒に住んでいる家族なども、ただ単にお爺さんお婆さんに対して免許の返納を迫っても、受け入れてもらえないのは、当然だろう。
そこでここでは、まず最初に、「高齢者がどの位の人が運転免許を持っているのか」、そして、「高齢運転者による交通事故がどの程度発生しているか」さらに、「どの様な事故が多く発生しているのか」について、内閣府の資料を参考に見ていこうと思う。
高齢者人口(65歳以上)の推移
総務省の資料によれば、日本の高齢者人口(65歳以上人口)は、2019年(令和元年)10月1日現在においては、3,589万人で、総人口の「28.4%」に達している。
「団塊の世代」といわれる、昭和22年(1947年)から昭和24年(1949年)ごろの第1次ベビーブーム時代に生まれた世代が75歳以上となる令和7年には、65歳以上人口は3,677万人に達すると想定されている。
そして、その後も65歳以上人口は増加傾向が続いて、令和24年(2042年)には3,935万人でピークを迎え、その後減少し、令和47年(2065年)には3,381万人となると推計されており、総人口に占める割合は、「38.4%」となるのだそう。
引用元:内閣府 高齢運転者の交通事故の状況
この様に、総人口が減少していくのにも関わらず、65歳以上の人が増加していくことで、高齢化率がどんどん上昇していき、令和18年(2036年)には、およそ3人に1人「33.3%」になるという。
そして、総人口に占める75歳以上人口の割合は、「団塊の世代」がこの年齢に達する令和7年(2025年)には「17.8%」になり、75歳以上の人口は、令和47年(2065年)には、およそ3.9人に1人「25.5%」となると推計されているそう。
高齢者の運転免許の保有者数
高齢者の「運転免許保有者数」と「高齢者率」の推移(最近10年間)は、以下のとおりで、
【運転免許保有者総数】
・平成20年(2008年)8,044万7,842人
・平成29年(2017年)8,225万5,195人と、2.2%の増加。
【65歳以上の高齢者の運転免許保有者数】
・平成20年(2008年)1,182万7,128人
・平成29年(2017年)1,818万3,894人と、約1.5倍に増加。
年齢層別では、
【非高齢者】
・平成20年(2008年)6,862万0714人
・平成29年(2017年)6,407万1301人と、6.6%減少。
【65~74歳の者】
・平成20年(2008年) 878万5,662人
・平成29年(2017年)1,278万8,582人と、約1.5倍に増加。
【75歳以上の者】
・平成20年(2008年) 304万1,466人
・平成29年(2017年) 539万5,312人と、約1.8倍に増加。
高齢者率では、
・平成20年(2008年)14.7%
・平成29年(2017年)22.1%と7.4pt上昇と、
運転免許保有者の5人に1人が高齢者。
引用元:法務省 65歳以上の高齢者の運転免許保有者数
引用元:法務省 65歳以上の高齢者の運転免許保有者数
高齢運転者による交通事故発生状況
内閣府のデータによれば、75歳以上及び80歳以上の高齢運転者による死亡事故件数は、平成21年(2009年)には75歳以上では「422件」、80歳以上では「180件」であったものが、10年後の令和元年(2019年)には75歳以上では「401件」、80歳以上では「224件」となっている。
引用元:内閣府 高齢運転者の交通事故の状況
免許人口10万人当たり死亡事故件数の推移については、75歳以上及び80歳以上の高齢運転者については、過去10年間減少傾向にある。
高齢運転者の死亡事故の累計比較
75歳以上の高齢運転者と75歳未満の運転者について、死亡事故を類型別に比較すると、
高齢運転者による死亡事故の傾向としては、
【75歳以上】
・車両単独による事故の割合が高く、具体的には「工作物衝突」や「路外逸脱」の割合が高い。
【75歳未満】
・車両単独による事故の割合も高く、「工作物衝突」の割合が高い。
引用元:内閣府 高齢運転者の交通事故の状況
高齢運転者の死亡事故の人的要因比較
死亡事故を人的要因別に比較すると、
【75歳以上】
・「操作不適による事故は、28%」と最も多く、内訳としては、「ハンドル操作不適は、13.7%」、「ブレーキとアクセルによる踏み違い事故は、7.0%」と高い。
【75歳未満】
・「安全不確認による事故は、25%」、「内在的前方不注意(漫然運転等)が24%」、「外在的前方不注意(脇見等)が20%」と前方不注意が合わせて44%と高く、75歳以上の高齢者に多かった「ブレーキとアクセルによる踏み違い事故は、0.5%」だった。
引用元:内閣府 高齢運転者の交通事故の状況
年齢層別の免許人口当たり死亡事故件数
引用元:警察庁 高齢運転者による死亡事故に係る分析(1)
このグラフから、免許人口当たりの死亡事故件数は、75歳以上の高齢運転者は、75歳未満の運転者と比較すると高くなっていることから、何らかの手立てを講ずることが必要なことが推測される。
高齢運転者の事故が起きやすい理由と対策
理由
高齢運転者の事故が起こりやすい理由はいくつかあり、以下に主な要因を挙げてみた。
- 反応速度の低下
高齢者は反応時間が遅くなるため、突発的な状況に迅速に対応することが難しくなる。 - 視力や聴力の衰え
加齢により視力や聴力が低下し、交通標識や他の車両、歩行者の認識が遅れることがある。 - 認知機能の低下
判断力や注意力の低下により、複雑な交通状況や予測不能な状況に対応する能力が減少する。 - 身体能力の低下
体力や柔軟性が低下することで、車両の操作や急な動きに対応することが難しくなる。 - 薬の影響
多くの薬を服用している高齢者は、副作用として眠気や注意力の低下が生じることがある。 - 運転経験の過信
長年の運転経験から、自分の能力を過信し、安全運転の基本を見落とすことがある。
この様に理由を見ていくと、年齢を重ねると避けようのない、加齢による身体的な機能低下が主な理由になっていることが想像できる。
対策
- 定期的な健康チェック
高齢者は定期的に視力、聴力、反応速度、認知機能などの健康チェックを受けるべきで、これにより、運転に必要な能力の低下を早期に発見できる。 - 運転能力評価
運転能力を評価するためのテストやシミュレーターを利用して、高齢者が安全に運転できるかを確認する。 - 運転教育プログラム
高齢者向けの運転教育プログラムを提供し、安全運転の技術や知識を再確認する機会を設ける。 - 安全装備の導入
自動ブレーキシステムや車線逸脱警報などの先進運転支援システム(ADAS)を搭載した車両を利用することで、事故リスクを減少させる。 - 運転時間やルートの制限
高齢者が運転する時間帯やルートを制限し、混雑時間帯や複雑な道路環境を避けるようにする。 - 家族や地域社会のサポート
家族や地域社会が高齢者の運転を見守り、必要に応じて代替交通手段を提供するなどのサポートを行う。 - 公共交通機関の利用促進
高齢者が公共交通機関を利用しやすくするためのインフラ整備やサービス提供を行う。 - 免許の自主返納の検討
免許を自主返納することで、自動車の運転を出来なくする。
これらの対策を組み合わせることで、高齢運転者の安全を確保し、事故リスクを減少させることができるかもしれない。
運転免許証の自主返納とは
「運転免許証の自主返納」とは、加齢や病気等に伴う身体機能の低下などにより、運転に不安を感じていたり自信が無くなった場合や、安全な運転に支障のある場合などで、運転免許証の有効期間が満了する前に、自らの意思により、免許証を返納できる制度のこと。
自主返納のメリットとデメリット
高齢になれば、加齢による身体的な衰えや過信などにより、自動車の運転に支障が出てくるのが一般的だろう。
これは、自分が望むと望まざるに関わらず、程度の差こそあれ、誰にでも等しく訪れる、身体的または精神的な変化である。
吾輩は61歳になるが、加齢による身体的変化を徐々に感じてきていて、他人ごとではないと思っているものの、実際に車を運転しない生活が出来るかどうかについては、一抹の不安を感じている。
メリット
- 交通事故のリスク低減
高齢者や健康上の理由で運転能力が低下している人が運転を続けると、交通事故のリスクが高まるため、自主返納することで、その社会的リスクを減少させることができる。 - 社会的な安心感の向上
運転に不安を感じる家族や周囲の人々にとって、自主返納は安心材料となり、特に高齢者が自主返納することで、家族の心配が軽減される。 - コストの削減
運転をやめることで、車の維持費やガソリン代、保険料などのコストが削減され、これらの経済的負担が軽くなる。 - 公共交通機関の利用促進
運転をやめることで、公共交通機関を利用する機会が増え、地域の公共交通インフラの利用促進につながる。
デメリット
- 移動手段の制限
車が主要な移動手段となっている地域では、運転をやめることで移動が不便になり、特に公共交通機関が充実していない地域では、日常生活に支障をきたすことがある。 - 心理的な影響
長年運転してきた人にとっては、運転をやめることが自由や自立の喪失と感じられることがあり、自主返納が心理的なストレスや自己評価の低下につながることがある。 - 緊急時の対応
緊急の際にすぐに移動する手段がなくなるため、緊急時の対応が難しくなる可能性がある。 - 社会的孤立のリスク
車が主要なコミュニケーション手段となっている場合、移動手段の制限によって社会的な孤立が進む可能性があり、特に高齢者にとっては、友人や家族との交流が減少するリスクがある。
まとめ
高齢者の運転免許証の自主返納が進まない背景としては、運転免許証の自主返納は、安全面や経済面でのメリットが大きい一方で、高齢者の移動の自由が制限されることで、その不便さや心理的影響が大きい事があげられる。
特に高齢者の場合は、社会的孤立を防ぐための支援や、公共交通機関の整備が重要となりそうだが、人口減少の中、その費用の捻出や人材確保も難しいのが現状だろう。
そして、高齢者本人が、運転能力に不安を感じた場合は、個々の状況に応じた慎重な判断をしなければならないのだが、様々な要因が重なり、なかなか出来ないのが現状のようだ。
人生100年時代といわれる中で、我々人間は、100歳まで健康で何らかの仕事をし、生活をしなければならないので、車の運転は、今後必須になる事は間違いない。
いずれ誰しもが、自分の身に訪れる事だと感じて、どの様にして高齢者でも安全に「いつでも、どこへでも」自由に、移動が出来るような手段を確保できる社会にするのか、みんなで知恵を絞り、考えなければならない時代が来たと感じた。