「鮭(サケ)」と言えば「北海道」のイメージだが、今年は、2024年8月30日に「鮭漁の定置網漁が解禁」となった。
しかし、十勝では資源保護の観点から、3日遅れの9月2日の正午ごろ、「北海道十勝地方の大樹漁港」で初水揚げがあり、さっそく「鮭(サケ)」の水揚げのニュースが報道された。
資源保護の観点から、初水揚げが3日遅れたのだが、これまで「鮭(サケ)」が無くて困ったような記憶は無い。
日本の食卓では、「焼き鮭」が定番で、それが無くなるようなことは想像できる人は少ないのではないか。
ここでは、今後「鮭(サケ)」は、どうなるのだろうか?今年はどうなのか?増えるのか?減るのか?
「鮭(サケ)」の生態や習性から、今後の「鮭(サケ)」の漁獲量がどのようになるかについて、見ていきたい。
「秋鮭」の鮭とは
「鮭(サケ)」とは、サケ目サケ科サケ属の魚で、狭義には種としてのO. keta の標準和名(一般に使用されている習慣的な名称)である。
広義にはサケ類一般を指すことが多く、標準和名の「鮭(サケ)」と呼んでいるのは「白鮭(シロザケ)」のことである。
一般に流通する場合の名称は、白鮭(シロザケ)、秋鮭(アキサケ)、秋味(アキアジ)(アイヌ語の「アキアチップ(秋の魚の意味)」に由来する。)などと呼ばれている。
このほか、地域や文化による呼び方の別名として、以下のようなものがある。
- シャケ:日本全国で広く使われる、日常的な言い方。特に焼き魚や食材としての鮭を指すときに使われる。
- アキサケ(秋鮭):秋に川に戻ってきた鮭を指す言葉で、産卵を控え成熟した「鮭(シロザケ)」を「秋鮭(アキサケ)」と呼んでいる。主に北陸地方や北海道で使われる。
- アカハラ:富山県や新潟県などでは、腹が赤くなった鮭を指す呼び方。
- トキシラズ(時知らず):(時鮭・時知らず) まだ産卵の準備をする前の個体で、秋に漁獲される「秋鮭(アキサケ)」に比べて豊富な脂質が特徴で、貴重な食材として珍重される。
時季外れに獲れるため「時知らず」というのが名の由来である。 - ケイジ(鮭児):「ケイジ」は、概ね4~5年で生まれた河川に帰る「鮭(シロザケ)」で、ロシアに母川があるサケの1~2年の幼魚という説が有力である。
その幼魚が稀に北海道の河川に帰る群れに混じり接岸した個体とされ、 幼魚のため産卵に必要な筋子(卵巣)や白子(精巣)などの器官が未成熟でその分の栄養が消費されず、魚体全体に脂がのっているのが特徴。
極めて脂のりが良くトロにも優るとも云われ、非常に希少で、脂が豊富なことから高級食材として扱われる。 - ギンケ(銀毛): 産卵の1~2ヶ月前の「秋鮭」で、体表(ウロコ)が銀色に輝いているゆえに「ギンケ(銀毛)」と呼ばれる。
「秋鮭(アキサケ)」は淡水域に近づくにしたがってウロコが剥がれ、体表に「ブナ色」と呼ばれる婚姻色が現れるが、沖で漁獲された個体にはその特徴がでていないため、綺麗な銀色を呈している。
身の色もいわゆるサーモンピンクで、通常の「秋鮭(アキサケ)」と比較すると市場価値は高い。 - ブナ(ブナ毛): 淡水域に近づくにしたがってシロザケは産卵準備のためオスメスの二次性徴が顕著になり、婚姻色と呼ばれる「ブナの木」の木肌のような模様がでる。
身をサーモンピンクにしている色素(アスタキサンチン)がオスは主に体表、メスは卵巣(卵)へ移るため、身の色が白っぽくなり、一般的には食味も落ちるとされているため市場での評価は低くなり、一般的に流通する事は稀である。
河川に遡上した個体はほぼこの「ブナ(ブナ毛)」になる。 - メジカ(目近): 産卵間近の秋鮭よりも、成熟度の低い希少な鮭で、口先から目までの間隔が短く、目が近くに寄って見えることから「メジカ(目近)」と呼ばれている。
本州の母川に帰る途中の個体が北海道で漁獲されたものという説が有力で、産卵1~2ヶ月前の「ギンケ (銀毛)」よりも成熟しきっておらず、顔立ちもより優しく見えるのが特徴。
秋鮭、ギンケ(銀毛)と比べても脂のりが良い鮭である。
鮭の生態と習性
「鮭(サケ)」は、回遊魚として知られ、独特な生態と習性を持っており、主な特徴や習性は、以下の通り。
1. 回遊性
鮭の最も特徴的な習性は、生まれた川から海に出て、成長した後に再び生まれた川へ戻る「回遊」である。
これを母川回帰(ぼせんかいき)と呼び、鮭は自分が生まれた川を正確に記憶し、数年後に再びその川へ戻る。
この行動には、川の匂いを覚えているという説や、地磁気や太陽光を手掛かりに移動する説がある。
2. 産卵と寿命
「鮭(サケ)」は、一般に秋に産卵することが多く、これに合わせて海から川へと遡上する。
遡上のタイミングや場所は種類によって異なり、川の上流に向かう際には、激しい流れや滝なども乗り越える驚異的な体力と跳躍力を発揮する。
「鮭(サケ)」は通常、「産卵を終えると寿命」という一生のうちで、一度しか産卵しない魚である。
これは多くの鮭の種類に共通する性質で、産卵後、体力が尽きるため、寿命はほぼその時点で終わる。
3. 成長段階
「鮭(サケ)」は、生まれてから海へ出て、成魚となるまで以下の段階を経て成長する。
- 稚魚(ちぎょ):川で孵化し、一定期間育つ。
- スモルト化:海に出る前に銀色に体色が変わり、塩分に適応した状態になる。
- 回遊期:海に出てからは、広い太平洋や北極海を回遊しながら成長する。成長期間は種類によって異なり、数年にわたることもある。
- 遡上:成熟した鮭は、産卵のために再び川を目指し、遡上する。
4. 母川回帰のメカニズム
「鮭(サケ)」の母川回帰は、非常に興味深い行動で、これには、以下のような要因が関与しているとされている。
- 嗅覚:鮭は、川の水に含まれる特定の化学物質や匂いを覚えており、成長して海から戻る際に、これを頼りに自分の生まれた川を探し当てるとされている。
- 地磁気や太陽光:海を回遊する際は、地磁気や太陽の角度を利用して、方向を定めているという説もある。
5. 食性
「鮭(サケ)」は、海に出ると、主に小型の魚や甲殻類を餌にして成長する。
プランクトンやオキアミを食べることも多く、これらの食物によって鮭の肉の色がオレンジ色やピンク色になることがある。
これは、オキアミに含まれるアスタキサンチンという色素が影響しているためである。
6. 遡上時の変化
「鮭(サケ)」は、遡上すると、その外見に顕著な変化が見られ、特に以下の特徴が現れる。
- 体色の変化:産卵期には、オスの体が赤くなることが多く、メスも体色が変わることがある。この体色の変化は、性ホルモンの影響によるものである。
- 歯や顔つきの変化:オスの鮭は産卵期に近づくと、「鼻曲がり」と呼ばれる特徴的な顔つきになり、顎が曲がり歯が大きくなることがある。この変化は、メスを巡る争いの際に使われる。
7. 種類
「鮭(サケ)」は、日本において、いくつかの異なる種類が存在し、主な種類として以下が挙げられる。
- シロザケ(白鮭):日本で最も一般的な鮭の一種で、回遊と遡上の特徴が典型的である。
- ベニザケ(紅鮭):名前の通り、鮮やかな赤身の肉を持つ鮭。主にオホーツク海やアラスカで見られる。
- ギンザケ(銀鮭):体が銀色をしており、主に北太平洋で生息。日本では養殖も盛んである。
- カラフトマス:日本ではあまり見られないが、ロシアや北米では一般的な鮭の一種である。
8. 天敵とリスク
「鮭(サケ)」の天敵には、主に以下のものが含まれる。
- クマやカモメ:川に遡上して産卵する際に、主にクマや鳥類によって捕食されることがある。
- 漁業と環境問題:人間による乱獲や、河川の開発による環境の変化も鮭の生態に影響を与えるリスクである。
9. 文化的な重要性
「鮭(サケ)」は、日本の食文化や伝統行事においても重要な位置を占めており、特に、鮭の漁や加工品は、古くから日本の農村部や沿岸部で生活の一部となって、地域ごとの鮭祭りなども行われる。
「秋鮭」の水揚げ減少!鮭の回遊に影響を及ぼす要因
「鮭(サケ)」の回遊性は、その生態や繁殖において非常に重要で、回遊ルートや水温などが大きな影響を与える要因となっている。
これらの要素は、鮭の成長や生存、繁殖成功に直接関わるため、鮭の行動に大きな影響を及ぼしている。
1. 回遊ルート
「鮭(サケ)」は、成長のために川から海へ出て、広範囲を回遊している。
この回遊ルートは、鮭の種類や生まれた場所によって異なり、いくつかの要因に影響される。
- 生まれた川から海へ:鮭は卵から孵化し、稚魚の段階を川で過ごし、一定の成長を遂げると、川を下って海へ出る。
- 広範囲の海洋回遊:海に出た鮭は、成長期に北太平洋やベーリング海、オホーツク海などを回遊する。
これらの地域では餌が豊富で、鮭はプランクトンや小魚、オキアミなどを食べながら成長する。
回遊ルートは一般的に以下のように分かれる。- 日本産の鮭は、太平洋の北部を回遊しながら成長し、ベーリング海やアラスカ沿岸まで移動することが多い。
- アラスカやカナダ産の鮭は、太平洋を横断して日本海や東シベリアの海域に回遊する場合もある。
- 川へ戻る時期:成熟した鮭は、生まれた川へ戻るために再び長い距離を移動し、この行動は産卵期に入ると本格化し、通常、秋に川へ遡上する。
鮭の回遊ルートは正確に母川回帰を行うため、非常に高度な方向感覚と記憶力が必要とされる。
サケの骨から回遊ルートがわかる!?
出典元:つくばサイエンスニュース サケの骨から回遊ルートがわかる!?
2. 水温の影響
水温は、鮭の回遊ルートや成長に大きな影響を与えるとされ、鮭は比較的冷たい水を好む魚であり、水温の変化に敏感である。
- 理想的な水温:鮭は、一般に「5~15℃」程度の冷たい水を好み、成長期に海での回遊中は、寒流に沿って移動することが多い。
餌が豊富である北太平洋や、オホーツク海など、冷涼な海域が、主な回遊エリアとなる。 - 高水温のリスク:水温が上昇すると、鮭にとって過酷な環境となり、成長や繁殖に悪影響が出る。
水温が高いと、鮭はストレスを感じ、餌の摂取量が減少し、健康状態が悪化することがある。
また、海水温の上昇は、鮭が利用する餌(プランクトンやオキアミなど)の生息域にも影響を与えるため、餌不足につながることもある。 - 温暖化の影響:地球温暖化による海水温の上昇は、鮭の回遊ルートを変える要因となりつつある。
北太平洋やアラスカ沿岸では、海水温の上昇に伴い、鮭の分布や回遊ルートが北へシフトする現象が報告されている。
3. 餌の分布と海流の影響
「鮭(サケ)」の回遊ルートは、餌の分布や海流の影響も大きく受ける。
- 餌の分布:鮭は海での回遊期間中、主にオキアミやプランクトン、小魚を食べて成長する。
これらの餌の分布は、海流や水温に依存しており、餌が豊富な場所へ向かって鮭が移動する傾向がある。 - 海流の影響:鮭は寒流(親潮や千島海流など)に乗って回遊することが多く、餌の豊富な北方の冷たい海域へ移動する。
海流の変化は、餌の供給量に影響し、鮭の回遊ルートを変えることがある。
4. 気候変動と環境変化の影響
気候変動や人為的な環境変化は、鮭の回遊ルートや繁殖に影響を及ぼす重要な要素である。
- 川の環境変化:河川の水温や流量の変化、ダムの建設などが、鮭の遡上にとって大きな障害となる。
特に、遡上する際に川の水温が高くなりすぎると、鮭は疲弊し、産卵までたどり着けないことがある。 - 海洋環境の変化:海洋の酸性化や汚染、海流の変動も鮭の回遊ルートに影響を与える。
特に、気候変動による海水温の上昇は、鮭の生息に適さない環境を作り出し、回遊ルートや生息域が北方に移動することが確認されている。
5. 鮭の適応能力
「鮭(サケ)」は、ある程度の環境変化に適応する能力を持っているが、急激な気候変動や環境破壊に対しては限界がある。
特に温暖化による水温上昇や海流の変化は、鮭の生存に深刻な脅威をもたらしており、これにより回遊ルートが変わり、母川回帰の成功率が低下する可能性もある。
「秋鮭」の漁獲量ランキング
「鮭(サケ)」と言えば、北海道というイメージが定着しているが、実際はどの位の漁獲量があるのかを調べてみよう。
令和4年(2022年)における、都道府県別の鮭(海面)の漁獲量(水揚げ量)とその割合は以下の通り。
鮭(海面)の漁獲量の都道府県ランキング(令和4年)
引用元:地域の入れ物 鮭(海面)の漁獲量の都道府県ランキング(令和4年)
このデータを見ると、全国での合計は、87,905tであり、第1位は「北海道で86,226t、シェア98.1%」となっており、第2位は「青森県で565t、シェア0.6%」、第3位は「秋田県で417t、シェア0.5%」となっている。
この様に、北海道の鮭の漁獲量がダントツで1位となっていることから、吾輩が勝手に抱いていたイメージも、納得の数値である。
「秋鮭」:最近の漁獲量
北海道沿岸の秋サケ漁獲量は、2022年は3,000万尾に迫る豊漁で、2023年は2,000万匹をわずかに下回った。
以下は、道立総合研究機構さけます・内水面水産試験場(以下、道総研さけます・内水面水試)の北海道連合海区漁業調整委員会調査によるデーターを、グラフ化したものである。
道総研さけます・内水面水試は、2024年の本道沿岸における秋サケ来遊を、海水温の上昇などで、「前年比25%減の1,703万尾」と予測しており、2年連続の大幅な減少が予想されるとしている。
今年の水揚げは減少予想?!食卓の「焼き鮭」は維持できるのか:まとめ
この様に、「鮭(サケ)」の回遊ルートや回帰行動は、水温、海流、餌の分布などの要因に強く影響されることが分かった。
水温が適切でなければ、成長や産卵が困難になり、回遊ルートの変化が起き、漁獲量も減ることもありうるのだ。
海流の変化により、漁場が漁港から遠くなれば遠くなるほど、漁船の燃料が必要になり、経費が増大する。
経費の増加は、水揚げ量の減少に直結し、漁業従事者にとっては死活問題になるのである。
秋鮭の数は減ってはいないかもしれないが、秋鮭が人間が簡単に捕獲できない、遠い海域に移動してしまえば、秋鮭の水揚げが減少するのは必然なのだ。
「焼き鮭」は、これまで通り食卓にのぼりそうだが、海外からの輸入物の「養殖サーモン」もあるので突然無くなることは無いかもしれない。
ちなみに、「鮭」と「サーモン」の区別は、「鮭」は、「海水魚で天然が多く」、「サーモン」は、「淡水魚で養殖が多い」などによって区分される。
この様な、地球温暖化や環境変化は、「鮭」の自然の回遊行動に深刻な影響を与えつつあり、「鮭」の漁獲量の減少に繋がっていると考えられため、これに対応するための保護活動や環境保全が強く求められる。