「フェンシング」は、全世界に数十万人規模の競技者がいるほどメジャーなスポーツで、第1回アテネオリンピックから正式な競技として採用されているそう。
しかし、日本では、「大田 雄貴選手」が銀メダルを獲得した、2008年の北京オリンピックがきっかけで、一時注目が集まったが、日本ではあまり知られていないのが現状で、マイナーなスポーツという印象だ。
だが、2012年ロンドンでは、「男子フルーレ団体が銀メダル」に輝き、2021年東京では「男子エペ団体が金メダル」を手にし、日本のスポーツファンを沸かせているのだ。
今回の2024年パリでは、日本選手団の旗手を務めた、世界ランキング1位(日本女子個人では史上初)の「江村美咲(えむら・みさき)選手」が、フェンシング日本女子サーブル初の「金メダル」に期待が高いので、その「フェンシング」について見ていきたい。
フェンシングの起源と歴史
「フェンシング」の起源は、古代エジプトやギリシャ、ローマにまで遡るとのことだが、現代のスポーツフェンシングとしての基礎は、中世ヨーロッパの「騎士の剣術訓練」に由来しているという。
以下に、その起源から中世、そして現代までの詳細を紹介しよう。
起源
「フェンシング」の起源は古代文明にまで遡り、古代エジプトやギリシャ、ローマでは、戦闘訓練の一環として剣術が行われていたという。
ローマ時代には、グラディエーターの戦闘が観衆の娯楽として人気を博し、このような戦闘技術が、フェンシングの基礎となる技術を発展させた。
中世
中世ヨーロッパでは、騎士の訓練として剣術が重要視され、この時代には、剣術の技術や戦略を記録した手引書(フェヒトブーフ)が多く作成された。
中世の剣術は、重い鎧を着た騎士が使用する大剣(ロングソード)を主に扱っていて、この時代の剣術は、実戦における戦闘技術として発展した。
ルネサンス
ルネサンス期には、剣術がさらに洗練され、決闘の技術としての側面が強まり、この時代には、軽量のレイピア(Rapier)という剣が登場し、決闘や護身術としてのフェンシングが発展した。
イタリアやスペインでは、「フェンシング」の学校が設立され、多くの剣術書が出版された。
この時代に基礎が築かれた技術が、現代のスポーツフェンシングに大きな影響を与えている。
近代
19世紀には、「フェンシング」がスポーツとして発展し始め、フランスでは、エペとフルーレの競技が盛んに行われるようになり、ルールも整備された。
1874年には、最初の公式なフェンシング競技大会が開催された。
オリンピック
「フェンシング」は、1896年にアテネで開催された第1回近代オリンピックで正式競技として採用された。
この時点で、フルーレとサーブルが競技種目として採用され、1900年のパリオリンピックでは、エペが加わり、現在の三種目がそろった。
これ以降、「フェンシング」は世界中で人気を集め、多くの国でフェンシング連盟が設立された。
現代
現代の「フェンシング」は、エレクトロニクスの導入によりさらに進化し、電子判定装置を使用することで、公平かつ正確な判定が可能となった。
また、国際フェンシング連盟(FIE)の設立により、世界中で統一されたルールが適用されるようになり、「フェンシング」は、オリンピックや世界選手権、ワールドカップなどの国際大会で広く競われており、世界中の多くの国で人気のあるスポーツとなっている。
この様に、「フェンシング」の歴史は、その技術や戦略の進化とともに、文化や社会の変遷とも密接に関連しており、この長い歴史を通じて、「フェンシング」は単なる戦闘技術から、洗練されたスポーツへと進化してきた。
そして、これらの3種類の剣とその特徴、歴史を理解することで、「フェンシング」の奥深さと魅力をより感じることができるだろう。
競技としての「フェンシング」
「フェンシング」には、「フルーレ」「エペ」「サーブル」の3種目があり、これは各種目で用いる「剣の名前」が、そのまま種目名になっているそう。
それぞれの種目で用いる「剣の名前」と特徴は以下の通り。
1. フルーレ (Foil)
- 特徴: 「フルーレ」は軽量で、長さ110cm、重さ500g以下で、「突き(thrust)」でのみ得点が可能。
有効打突面は胴体部分に限定されている。
「フルーレ」は、「優先権」を尊重する種目で、先に腕を伸ばし剣先を相手に向けた方に優先権が生じ、相手がその剣を払って逃げ切れば優先権は相手に移る。
剣の先端には電子スイッチがあり、突きの圧力が一定以上になると得点が記録される。 - 歴史: 「フルーレ」は、17世紀にヨーロッパの軍隊で訓練用の剣として使用され始め、19世紀にはスポーツフェンシングとしてのルールが整備され、現代の競技会で広く使用されている。
2. エペ (Épée)
- 特徴: 「エペ」はフルーレよりも重く、剣の全長は110cm、重さは約750g。
「エペ」は3種目で唯一、優先権の概念が存在せず、突きでのみ得点が可能で、全身が有効打突面となる。
フルーレと同様に、剣の先端には電子スイッチがあり、一定の圧力で得点が記録される。 - 歴史: 「エペ」は19世紀後半にフランスの決闘用の剣を基にして作られ、決闘のリアリズムを追求した競技として発展し、現在のスポーツフェンシングに取り入れられた。
3. サーブル (Sabre)
- 特徴: 「サーブル」は、剣の刃の全体を使って攻撃ができるため、突きだけでなく、斬り(cut)も有効で、長さは105cm、重さは500g以下。
有効打突面は、腰から上の全ての部分(頭部、腕、胴体)。
攻撃のスピードとリズムが重要で、他の剣種よりも攻撃的なスタイルが求められる。 - 歴史: 「サーブル」は、18世紀のハンガリーの騎兵によって使用されたカーブした剣に由来し、19世紀にヨーロッパの軍隊で訓練用として使用されるようになり、スポーツフェンシングの一環として発展した。
競技種目 | フルーレ (Foil) | エペ (Épée) | サーブル (Sabre) |
---|---|---|---|
長さ | 110 cm | 110 cm | 105 cm |
重さ | 500 g以下 | 約750 g | 500 g以下 |
有効打突面 | 胴体のみ | 全身 | 腰から上(頭部、腕、胴体) |
攻撃方法 | 突き | 突き | 突きと斬り |
優先権 | 有り | 無し | 有り |
見どころ | 攻撃、防御、反撃の応酬 | スピーディーさ | ダイナミックな攻防 |
競技方法
「フェンシング」の競技(特に「フルーレ」「サーブル」)は、「優先権」というルールがあり、剣を素早く正確に有効面をつかなければならないため、動きが素早いことから、競技について詳しく無い人は、どちらが得点したかが分からないかもしれない。
この様にその魅力は、「頭脳性」「正確性」「スピード性」にあり、選手のその一瞬の動きを見逃さないようにしたい。
しかし、微妙な瞬間は、ビデオ判定も駆使され分かりやすく解説してくれるので、ハラハラしながら試合を観戦できる。
競技の詳細なルールは、以下を参照してほしい。
フェンシングにはフルーレ、エペ、サーブルの3種目があります。使用する用具や有効面(得点となるターゲット)が違うなど、各種目で競技規則が異なります。
男女とも共通のルールでそれぞれ個人戦、団体戦があります。世界選手権などでは、上記3種目それぞれで、男女別、個人戦、団体戦の12種目が行われます。
個人戦の場合、プール戦(6~7名ずつの総当たり戦)は3分間で5本先取した方が勝利、トーナメント戦は3分間3セットで15本先取した方が勝利となります。時間内で終わらなかった場合は得点の多い方が勝ちとなります。時間が終了して同点の場合は、1分間1本勝負の延長戦を行います。1分経過しても同点の場合に備えて延長戦の前に抽選で一方の選手に優先権を持たせておき、延長戦終了時にも同点の場合は優先権のある選手の勝ちとします。
団体戦の場合、1チームの3名が相手チームの3名と合計9試合を戦い、3分間で5本単位の勝負を重ねて45本先取または、9番目の試合までの合計でリードしたチームの勝ちとなります。9番目が終了して同点の場合は、個人戦同様の1分間1本勝負の延長戦で決着をつけます。
「突き」の判定は電気審判器で行います。電気審判器と選手の持つ剣はボディコードと、審判器コードまたは無線により接続されています。
- フルーレ: 有効面を剣で500g以上の圧力で突くと剣の先端にあるボタンスイッチが電気信号を送リ、審判器の色ランプ(赤または緑)が点灯する。無効面を突くと白ランプが点灯する。
- エペ: 有効面を剣で750g以上の圧力で突くと剣の先端にあるボタンスイッチが電気信号を送り、審判器の色ランプ(赤または緑)が点灯する。
- サーブル: 剣で有効面を触れば電気信号が送られる。無効面に触ってもランプは点灯しない。
審判(通常1名)は試合の進行を指揮し、ランプの点灯した「突き」についての有効性を判定します。ランプの点灯のほか、ルールに則した攻撃か、選手以外の物を突いて審判器が反応していないか、ピスト(試合用コート)の範囲内で行われた攻撃か、などの条件を加味し有効な得点となるかどうかを決定します。
引用元:笹川スポーツ財団 フェンシング競技方法
観戦のポイント
「フェンシング」初心者は、ルールや動きの速さなどについていけないなどあるかもしれないが、観戦のポイントを押さえれば、試合をより楽しく観戦できるだろう。
ポイントは以下の通り。
1. 剣の種類を理解する
「フェンシング」には「フルーレ」「エペ」「サーブル」の3種類の剣があり、それぞれルールや有効打突面が異なる。
- フルーレ (Foil): 胴体部分のみが有効打突面。突きのみが有効。
- エペ (Épée): 全身が有効打突面。突きのみが有効。
- サーブル (Sabre): 腰から上(頭部、腕、胴体)が有効打突面。突きと斬りが有効。
2. 試合の流れを知る
「フェンシング」の試合は、3分間のピリオドを最大3回行い、先に15ポイントを取った選手が勝ちとなる。時間切れの場合は、より多くのポイントを取った選手が勝ちとなる。
3. 攻撃と防御の基本を理解する
「フェンシング」には様々な技があるが、基本的な動きを理解しておくと観戦が楽しくなる。
- 突き (Thrust): 相手に向かって剣の先端で突く動き。
- 斬り (Cut): サーブルでのみ使用される、剣の刃で相手を斬る動き。
- 防御 (Parry): 相手の攻撃を剣で防ぐ動き。
- リポスト (Riposte): 防御の直後に反撃する動き。
4. 審判の判定に注目する
「フェンシング」では、審判が攻撃と防御の順序や有効打突面を判定するため、審判のジェスチャーや得点の表示に注目して、どの選手がポイントを取ったかを確認しよう。
5. フットワークを見る
「フェンシング」では、フットワークが非常に重要で、選手の足の動き(前進、後退、側面移動)に注目すると、攻撃と防御のタイミングや戦略が見えてくる。
6. 戦略と心理戦を楽しむ
「フェンシング」は頭脳戦でもあり、選手が相手の動きを読んで戦略を立て、フェイントを使って相手を混乱させる様子を見ると、試合の深さがわかる。
7. ルールと礼儀作法を学ぶ
「フェンシング」は、スポーツマンシップが重視される競技で、試合前後の礼(敬礼)や、試合中のルールを学ぶと、選手の礼儀正しさやフェアプレー精神に感動するだろう。
8. 試合の雰囲気を楽しむ
「フェンシング」の試合は、スピード感があり、迫力満点。
選手の集中力や観客の応援にも注目して、試合全体の雰囲気を楽しもう。
まとめ
これらのポイントを押さえておくと、「フェンシング」の試合観戦がより楽しく、深く理解できるようになるだろう。
試合の流れや選手の動きをじっくり観察しながら、「フェンシング」の魅力を存分に味わおう。
がんばれニッポン!
また、2024年パリオリンピックの「ピクトグラム」も、フランス独特のデザインなので、そちらにも注目してほしい。