吾輩が生まれたのは、昭和38年(1963年)で、日本の戦後復興が進んだ時期でもあったが、日本は、まだまだ貧しい時代だった。
舗装された道路は少なく、デコボコ道が多かったし、そもそも自家用乗用車の普及率も高くはなかった。
そして、カラーテレビやエアコン、ましてやスマホなどは勿論無かった時代だ。
今はどうだろう。
生活はますます便利になり、「電気無し」では、生活できない状態だ。
2024年の夏は、一段と暑さが増し、エアコン無しでは生活できないどころか、エアコンを使わなければ「命の危険」さえあるような時代となった。
この様に、エネルギー消費がどんどん高まる中、地球温暖化にもつながるような、エネルギーの消費の仕方を、これからもずっと続けていいのだろうか?
我々人類は、もはや、「電気無し」での生活は、想像出来ない。
ここでは、今の生活スタイルや便利さを維持しながら、この豊かな生活を、これからも続けていけるのか、気になったので、再生可能なエネルギーの1つとされる、「風力発電」について、見ていきたいと思う。
1.はじめに:日本におけるエネルギー発電の構成割合
日本のエネルギー発電の構成割合は、過去数十年で大きく変化している様で、特に、2011年3月11日の福島第一原発事故をきっかけに、再生可能エネルギーの導入が加速し、原子力発電の比率は大幅に減少した経緯がある。
以下は、経済産業省 資源エネルギー庁の資料を参考に、昔と現在のエネルギー発電構成比の比較を見てみたい。
供給の動向
日本では、1973年の第一次石油危機を契機として、電源の多様化が図られてきました。
2021年度の電源構成は、LNGが34.4%(3,558億kWh)、石炭が31.0%(3,202億kWh)、新エネ等が12.8%(1,317億kWh)、水力(揚水含む)が7.5%(776億kWh)、石油等が7.4%(767億kWh)、原子力が6.9%(708億kWh)となりました。2020年度と比べると、LNGと水力のシェアが低下する一方で、新エネ等、石油等、原子力のシェアが増加しました(第214-1-6)。
【第214-1-6】発電電力量の推移
注1)1971年度までは沖縄電力を除く。
出典元:経済産業省 資源エネルギー庁 第4節 二次エネルギーの動向
注2)発電電力量の推移は、「エネルギー白書2016」まで、旧一般電気事業者を対象に資源エネルギー庁がまとめた「電源開発の概要」及び「電力供給計画の概要」を基に作成してきたが、2016年度の電力小売全面自由化に伴い、自家発電を含む全ての発電を対象とする「総合エネルギー統計」の数値を用いることとした。なお、「総合エネルギー統計」は、2010年度以降のデータしか存在しないため、2009年度以前分については、引き続き、「電源開発の概要」及び「電力供給計画の概要」を基に作成している。
過去のエネルギーミックスと比較すると、1980年代から2000年代までは石油、石炭、天然ガスといった、化石燃料が圧倒的なシェアを占めており、特に原子力発電も約30%程度を占めていた。
しかし、福島の原発事故後は、原子力が一時的に停止され、再生可能エネルギーと天然ガス火力が中心となった。
1.1 昔のエネルギー発電構成(1990年代〜2010年頃)
1990年代から2010年頃までは、化石燃料と原子力が主力の時代であった。
当時の原子力発電への期待は高く、1990年当時、福島県双葉町の看板にあったように、「原子力明るい未来のエネルギー」として、国民に浸透していったのである。
(1)火力発電(石油・石炭・天然ガス)
火力発電は、日本のエネルギー供給の大部分を占めており、特に石炭と天然ガスの利用が多く見られた。
1990年代は、1970年代に2回あった「オイルショック(石油危機):1973年に第四次中東戦争を機に、第1次オイルショックが始まり(1977年3月まで)、1978年にはイラン革命を機に、第2次オイルショックが始まり(1983年3月まで)」後の影響もあり、石油依存から石炭・天然ガスへの移行が進んだ。
石油: 1970年代後半にピークを迎えた後、依存度が徐々に減少。
石炭: 安定的な供給源として利用され続けてきた。
天然ガス: 燃焼効率が高く、環境負荷が比較的少ないことから、発電比率が増加。
(2)原子力発電
日本では1970年代以降、原子力発電が「ベースロード電源:季節や天候、昼夜を問わず一定量の電力を、安定的に供給できる電源」として、安定供給を担う役割を果たしていた。
1990年代には、原子力発電は、全体の約30%を占め、二酸化炭素排出量が少ない点から重要なエネルギー源と見なされていた。
(3)水力発電
日本を代表するダムである通称「くろよん:黒部ダム・黒部川第四発電所)」と呼ばれるダムは、戦後の日本の急速な経済復興に伴う、関西の深刻な電力不足を解消するため、昭和31年(1956年)から建設が始まった。
水力発電は、伝統的なエネルギー源であり、大正時代から、黒部川の水力電源開発として、始まっており、山間部のダムを利用した発電が行われていた。
水力発電は、発電構成比では、現在約10%前後を維持しているが、大型水力発電(ダムなど巨大な発電装置を活用)は、既に開発の余地を残していない状況とのこと。
しかし一方で、小水力発電(上下水道や農業用水、一般河川を活用)に関しては、未開発の部分も多い。
小水力発電は、環境負荷が少なく、比較的短時間で設備設置が可能とされており、期待されている。
(4)再生可能エネルギー
この時期、再生可能エネルギーは、まだ発展途上であり、全体の構成比は極めて少数であった。
風力や太陽光発電は、ほとんど普及しておらず、水力発電が中心だった。
1.2 現在のエネルギー発電構成(2020年以降)
2020年以降、日本のエネルギー構成は、再生可能エネルギーの比率が大きく増加し、原子力発電の比率が徐々に増加している。
(1)火力発電
火力発電は、依然として日本の電力の中心だが、燃料の内訳が変わっている。
特に石炭や石油から、環境負荷の少ない「天然ガス」へのシフトが進んでいる。
2020年時点で、火力発電は、全体の約70%を占めているが、再生可能エネルギーの拡大に伴い、将来的には、その依存度が減少すると予測されている。
(2)原子力発電
2011年の東日本大震災後、原子力発電所の多くが停止した。
再稼働が進んではいるものの、2020年時点で全体の「6%前後」を占めるにとどまっている。
かつての約30%と比較すると、大幅に低下している。
(3)再生可能エネルギー・新エネルギー
ここ10年間において、最も大きな変化が見られるのは、再生可能エネルギー・新エネルギーの増加である。
引用元:エネ百科 新エネルギーの定義
経済産業省の、2022年度の電源構成によれば、再生可能エネルギーについては、前年度比1.4%増の「21.7%」を占め、再生可能エネルギーの内訳と構成比の順位は、以下のようになった。
- 1位:太陽光発電: 9.2%
- 2位:水力発電: 7.6%
- 3位:バイオマス発電: 3.7%
- 4位:風力発電: 0.9%
- 5位:地熱:0.3%
政府の目標では、2030年までに、再生可能エネルギーの比率を「36%〜38%」まで引き上げることが掲げられている。
以下は、経済産業省 資源エネルギー庁の資料による、再生可能エネルギーの2030年度の発電電力量・電源構成である。
引用元:経済産業省 資源エネルギー庁 エネルギー基本計画(素案)の概要
2.風力発電とは?
風力発電は、風の力を利用して電力を生み出す、再生可能エネルギーの一種である。
その基本的な仕組みは、①風が風車のブレードを回転させ、②その回転運動を発電機に伝え、③電気エネルギーに変換する、というものである。
主に以下の、構成要素から成り立っている。
2.1 風力発電の「風車(タービン)」
風車(タービン)は、風力発電の中心的な機械で、風を受けて回転する羽(ブレード)とその回転を電力に変換するための発電機を備えており、風力タービンには、主に2種類がある。
水平軸風力タービン:もっとも一般的なタイプで、風車の軸が地面に対して水平に配置されており、大型の風力発電施設で多く見られる。
垂直軸風力タービン:風車の軸が地面に対して垂直に配置されており、風向に関係なく動作できる、という特徴を持っており、都市部や小規模な施設で使用されることがある。
2.2 風力発電の「プロセス」
風がブレードを回転させ、その運動エネルギーが軸を通じて、発電機に伝わる。
発電機は、この回転運動を、電気エネルギーに変換し、配電網に供給する。
2.3 風力発電の「風速と出力」
風力発電の出力は、風速に依存しており、通常、風速が一定以上でなければ発電できない。
風が強ければ強いほど、発電量が増えるが、過度の風速は、タービンにダメージを与えるため、自動でブレードを停止させる仕組みもある。
2.4 風力発電の「効率と限界」
風力発電は、クリーンなエネルギー源であり、燃料を必要としないため、温室効果ガスを排出しない。
ただし、風が吹かないと発電できないため、場所や天候による制約があるのがデメリットである。
2.5 風力発電の「メリット」
再生可能:風は、枯渇することがない自然エネルギーであり、持続可能である。
環境負荷が少ない:風は、二酸化炭素や他の温室効果ガスを排出せず、環境への影響が少ない。
低運用コスト:一度設置されると、運用にかかるコストは比較的低くなる。
広い設置可能地域: 陸上や海上の広範囲で利用可能である。
2.6 風力発電の「デメリット」
不安定な出力:天候に左右され風速に依存するため、発電量が一定ではなく、エネルギー供給が安定しないことがある。
景観と騒音:大型の風力タービンは、景観に影響を与えたり、回転音が発生したりするため、設置場所によっては、問題になることがる。
高い初期投資: 設置コストが高く、発電効率を最大限に引き出すためには、適切な立地選びが重要になる。
風力発電は、特にヨーロッパや中国などで急速に普及しており、日本でもその導入が増えているが、地理的条件や電力需要に応じた、最適な配置が必要とされる。
3.風力発電の種類
風力発電には、いくつかの種類があり、「設置場所」や「風車の設計」によって分類される。
3.1 風力発電の「設置場所」による分類
風力発電の「設置場所」による分類は、オフショア(洋上)風力発電と、オンショア(陸上)風力発電がある。
それぞれの種類には、特有のメリットやデメリットがある。
(1)オフショア(洋上)風力発電
海上に設置される風力発電で、海風を利用して発電する。
風が安定して強い場所に設置されるため、効率的な発電が可能である。
メリット: 陸上よりも強い風を安定的に受けるため、発電量が大きい。陸上のスペースを節約でき、騒音や景観の問題が少ない。
デメリット: 設置とメンテナンスにかかるコストが高く、技術的な挑戦も多い。
(2)オンショア(陸上)風力発電
陸上に設置される風力発電システムで、設置場所によっては強風を受けやすく、発電効率が高いが、土地の確保や騒音、景観問題などが課題となる。
メリット: 設置コストが比較的低く、陸地内でのアクセスが容易である。
デメリット: 風が安定しない場合や、環境影響への懸念がある場合がある。
3.2 風力発電の「風車の設計」による分類
(1)水平軸風力発電機(Horizontal Axis Wind Turbine, HAWT)の特徴
風車の軸が地面に対して「水平」に設置されているタイプであり、特徴や種類については、以下の通り。
1)水平軸風力発電機の「特徴」
風車型としてよく見られるもので、風車の軸が、地面に対して「水平」に配置されており、大規模な風力発電施設で広く使用されている。
風の向きに合わせて回転するブレードを使い、最も一般的なタイプ。
高い効率性を誇り、大規模な発電に適しており、風が一方向から吹く場合に最適である。
2)水平軸風力発電機の「設置例」
オフショア(洋上)風力発電や、オンショア(陸上)風力発電に使用される風車がこのタイプである。
以下は、国交省が養生風力発電に係る、促進区域など位置図である。
引用元:国土交通省港湾局 洋上風力発電の導入促進に向けた最近の状況
引用元:経済産業省 資源エネルギー庁 風力発電について
3)大型化する風力発電のプロペラ(ブレード)の大きさと時代別変遷
風力発電技術の進歩に伴い、ブレードのサイズと発電量が大型化してきている。
これは、より高効率なエネルギー生成を可能にするために、風力タービンの物理的サイズを大きくしてきた結果である。
以下は、風力タービンの「ブレードの大型化」と「発電量の増加」の経緯である。
① 1970年代 – 1980年代: 初期の風力発電
ブレードサイズ: 数十メートル
発電量: 100 kW以下
1970年代、風力発電はまだ小規模であり、ブレードは10〜20メートル程度、発電量も数十キロワットであった。
この時期は、風力発電が主に実験段階にあり、技術も限られていた。
② 1990年代: 中規模風力発電の普及
ブレードサイズ: 30〜40メートル
発電量: 500 kW〜1 MW
1990年代に入り、風力タービンの設計技術が進化し、ブレードの素材も改良された。
特にグラスファイバー強化プラスチック(FRP)が使われ始め、ブレードの大きさが拡大した。
発電容量も、1 MWを超えるタービンが普及した。
③ 2000年代: 大規模化とオフショア(洋上)風力
ブレードサイズ: 50〜60メートル
発電量: 2〜3 MW
2000年代に入ると、風力発電の需要が高まり、特に欧州を中心に、洋上風力が発展した。
ブレードもさらに大きくなり、60メートルに達するものが登場し、出力も3 MWを超えるようになった。
これにより、風力発電のコストパフォーマンスが大幅に改善した。
④ 2010年代: 超大型タービンの登場
ブレードサイズ: 70〜80メートル
発電量: 5〜10 MW
2010年代には、技術の進歩によってタービンはさらに巨大化し、特に洋上風力で7〜10 MWの出力を持つタービンが登場した。
ブレードの長さも、80メートルを超えるものがあり、これによりより、広範囲の風を捉えることが可能になった。
⑤ 2020年代: 15 MWクラスのメガタービン
ブレードサイズ: 100メートル超
発電量: 10〜15 MW
最新の洋上風力タービンでは、ブレードの長さが100メートルを超え、発電容量も15 MWに達するものが開発されている。
これにより、より少ないタービン数で、大規模な風力発電所を運用することが可能になった。
年代 | ブレードサイズ | 発電量 | 備考 |
---|---|---|---|
1970年~1980年代初期 | 数十メートル | 100kW以下 | 実験段階であり、まだ小規模 |
1990年代 | 30~40メートル | 500 kW〜1 MW | 風力タービンの設計技術が進化し、ブレードの素材も改良され拡大 |
2000年代 | 50〜60メートル | 2〜3 MW | 風力発電の需要が高まり、ブレードと発電容量も拡大 |
2010年代 | 70〜80メートル | 5〜10 MW | 技術の進歩によってタービンはさらに巨大化 |
2020年代 | 100メートル超 | 10〜15 MW | 最新の洋上風力タービンでは、ブレードの長さが100メートルを超え、発電容量も15 MWに達するものが開発 |
最大風車サイズの変遷(市販されている最大の風力タービンの進化)
引用元:: IEA Ofshore Wind Outlook 2019
技術の進歩により、ブレードの素材も、軽量かつ高強度なものが使われるようになり、風のエネルギーを、より効率的に変換できるようになっている。
また、より高い場所で安定した風を捉えるため、タワーの高さも高くなっている。
4)風力発電の定格出力による分類
- 1kW未満:マイクロ風車
- 1kW~50kW未満:小型風車
- 50kW~1000kW未満:中型風車
- 1000kW以上:大型風車
日本においても、実際に風力発電がどんどん多くなってきており、大型の風力発電だけでなく、小型の風力発電が、市街地の戸建て住宅などで、設置されているとのこと。
小型の風力発電は、今までの大型の風力発電とははっきりと区別されており、2 m/s~3m/s程度の弱い風でも発電でき、中~大規模の風力発電に比べて振動や騒音が小さい小型風力発電機も開発され、現在着目されているそう。
(2)垂直軸風力発電機(VAWT)の特徴と種類
風車の軸が地面に対して「垂直」に設置されているタイプであり、特徴や種類については、以下の通り。
1)垂直軸風力発電機の「特徴」
垂直軸風力発電機は、垂直軸の構造により、風向きに関係なく全方向から風を受けることができるため、従来のプロペラ型のように、風向きを考慮し、風力発電機の設置方向を気にする必要がない。
そのため、都市部や風が乱れる環境でも、安定した発電が可能である。
2)垂直軸風力発電機の「種類」
代表的な垂直軸風力発電機には、「ダリウス型」や「サボニウス型」があり、構造が簡単でメンテナンスが少ないというメリットもあるとのこと。
① ダリウス型(Darrieus Turbine)風力発電機
引用元:CQ出版 風力発電の基礎
構造:
- ブーメランのようなC字型、またはΩ型の曲線的なブレードを持つタービン。
特徴:
- 高速回転が可能で、効率が比較的高い。
- 主に遠心力を利用して回転する。
- 空気力学的なブレード形状が、高速での回転に優れた効率を提供する。
- 回転軸は垂直で、風の方向に依存しない。
利点:
- 大きな出力を得やすく、比較的効率が高い。
- 高速での回転が可能。
- 高風速環境での効率が良い。
- 風向に関係なく動作。
欠点:
- 自己始動能力が低く、外部動力での始動が必要な場合が多い。
- 振動が大きく、耐久性に課題があることがある。
② サボニウス型(Savonius)風力発電機
引用元:CQ出版 風力発電の基礎
構造:
- 2つの半円形のブレードをドラム状に配置したタービン。
- ブレードのカップが風を受けて回転する。
特徴:
- 低風速でも回転が始まりやすく、ゆっくりとした回転速度で発電。
- 小型で設置が容易。
利点:
- 低速風や乱れた風でも動作しやすい。
- 自己始動能力が高く、低速でも自己始動でき、小規模な風力発電システムに向いている。
- 構造がシンプルで低コスト。
欠点:
- 回転速度が遅いため、発電効率が低く、出力が大きくない。
- 高風速環境ではあまり適していない。
③ 直線翼型 H型ダリウス型(Straight-Bladed Darrieus or H-Darrieus Turbine)風力発電機
引用元:国立大学55工学系学部ホームページ 風力発電の高効率化への取り組み
構造:
- 垂直に取り付けられた直線的なH字型のブレードを持つ。
特徴:
- ダリウス型の派生型で、ブレードの形状がシンプルなため、構造が簡素化されている。
- ダリウス型の性能を維持しつつ、直線的なブレードを採用して構造を簡素化。
- 設計がシンプルで製造が容易。
利点:
- 低コストで製造可能。
- 高速回転が可能で、安定した発電が期待できる。
欠点:
- ブレードにかかる力が大きいため、耐久性に課題があることがある。
- 自己始動が難しいことがある。
④ 垂直軸型マグナス式(Magnus Effect Vertical Axis Wind Turbine, VAWT)風力発電機
引用元:株式会社チャレナジー 垂直軸型マグナス式風力発電機
構造:
- ブレードの代わりに、回転する円筒(ローラー)を持つ風力発電機。
- 円筒は垂直軸に取り付けられ、電動モーターや他の仕組みで高速で回転する。
- マグナス効果により円筒が回転すると、周りの風が円筒の一方側で加速し、もう一方側で減速する。この圧力差によって円筒が回転方向とは垂直の力を受け、風力発電機全体を回転させる。
特徴:
- マグナス効果を利用するもので、 一般的なブレードの代わりに回転する円筒を使うことで、効率的に風のエネルギーを活用できる。
- 垂直軸型であるため、風向に関係なくエネルギーを得ることが可能で、どの方向から風が吹いても安定して動作する。
- 円筒の回転によって、低風速でも大きな回転力を得られるため、従来の風力発電機よりも低風速環境に適している。
利点:
- マグナス効果を利用して、少ない風でも大きな回転力が得られるため、効率が高い。
- 低風速でも発電が可能で、設置場所を選ばず、多様な環境での発電が期待できる。
- 円筒の回転によるマグナス効果は、従来のブレード式風力発電機に比べて低速で回転するため、騒音が少ない。
- ブレードに代わる回転円筒は構造的にシンプルで、ブレードの疲労や破損のリスクが低い。
欠点:
- 円筒の回転を適切に制御するための、追加システムや電動モーターが必要であり、制御が複雑化する。
- マグナス効果を発生させるための、モーターや制御機構が必要なため、従来の風力発電機に比べて設置コストが高くなる。
- マグナス式風力発電は、まだ広く普及しておらず、技術的に未成熟な部分が多いため、商業的な利用は限られている。
- 風速や方向によって回転効率が変わる場合があり、最適な性能を発揮するためには細かな制御が必要。
⑤ クロスフロー型(Cross-Flow Turbine)風力発電機
構造:
- 水平に配置された円筒形のブレードが風を受けて回転する。
- 風がブレードを通過することで回転力を生む。
特徴:
- 風がブレードを2度通過するため、効率が比較的高い設計。
利点:
- 風の効率的な利用が可能。
- 自己始動が可能で、安定した回転を保ちやすい。
欠点:
- 複雑な構造のため、メンテナンスが必要になることがある。
- 大規模な設置には向いていない。
⑥ S型ローター型(S-Rotor Turbine)風力発電機
構造:
- S字型のブレードを持ち、風を受けて回転する構造。
- 風を効果的に受け止め、低速でも動作可能。
特徴:
- ブレードがS字に曲がっており、風を捕まえやすいデザイン。
- 風速に関係なく動作できるが、低速回転。
利点:
- 低速風や乱れた風でも回転が始まる。
- 構造がシンプルでコストが低い。
欠点:
- 高速での効率が低い。
- 小規模な発電にしか適さない。
4.風力発電の「課題と解決策」
風力発電の課題には、「風の不安定性」、「景観や騒音の問題」、「初期投資の高さ」、「設置の難しさ」などが挙げられる。
これらを解決するためには、「技術革新」や「政策支援」、「設置方法の工夫」が必要となる。
具体的な課題と対策は、以下の通り。
4.1 課題1:「風の不安定性による発電量の変動」
対策1:エネルギー貯蔵システムの導入
風力発電の不安定な発電量を補うため、蓄電池や揚水発電といったエネルギー貯蔵システムの導入が重要である。
発電量が多いときに、余剰エネルギーを蓄え、発電量が少ないときに、それを供給することで、安定した電力供給が可能になる。
対策2:スマートグリッドの活用
スマートグリッド技術を導入することで、風力発電の変動に対応し、電力を効率的に分配できる。
異なる再生可能エネルギー源を連携させることで、風力発電の不足を補う事が必要。
対策3:分散型風力発電
大規模な集中型風力発電ではなく、地域ごとに分散した風力発電を行うことで、地域間の風況の違いによる発電量の変動を緩和することが必要。
4.2 課題2:「景観・騒音問題」
対策1:遠隔地への設置
風車の設置を、人口の少ない遠隔地や海上(洋上風力発電)に移すことで、景観や騒音の問題を軽減できる。
特に洋上風力発電は、陸上に比べて強い風を利用でき、騒音や景観への影響が少なくなる。
対策2:垂直軸型風力発電機の導入
垂直軸型風力発電機(VAWT)は、一般に低騒音で、設置場所に制約が少なく、景観への影響も小さいため、都市部や住宅近くにも設置しやすい。
対策3:低騒音ブレード技術の開発
風車のブレードに騒音低減技術を組み込むことで、騒音を抑えることができる。
現在、鳥の羽を模したデザインや音響的に優れたブレード設計が開発されている。
4.3 課題3:「初期投資の高さ」
対策1:政府の支援策と補助金
風力発電の初期コストを下げるために、政府が再生可能エネルギーに対する補助金や税制優遇を拡充することが重要である。
長期的な投資効果を認識し、インセンティブを提供することで、企業や自治体の導入を促進する。
対策2:技術革新によるコスト削減
風力発電機の製造コストを削減するため、軽量かつ強度の高い材料の開発や、効率的な設計手法が求められている。
技術革新によって、発電機のメンテナンスや設置にかかるコストも削減可能となる。
対策3:規模の経済
風力発電の市場が拡大するにつれて、大量生産が進み、コストが下がる。
より多くの風力発電プロジェクトが展開されることで、初期投資の経済的負担が軽減される。
4.4 課題4:「設置の難しさ」
対策1:洋上風力発電の拡大
洋上風力発電は、設置場所が広く確保できるため、土地の制約が少なくなる。
特に浮体式風力発電は、海の深い場所でも設置可能であり、利用できるエリアが広がる。
対策2:コンパクトな風力発電機の開発
都市部や狭いスペースでの設置を容易にするため、小型で高効率な風力発電機の開発により、ビルの屋上や住宅街での風力発電が可能になる。
対策3:既存インフラの活用
送電網や電力設備が整った地域に、風力発電を設置することで、新たなインフラ整備のコストを抑えることができる。
既存の送電線に接続することで、効率的な電力供給が可能となる。
4.5 課題5:「地域住民との調整」
対策1:透明性のあるコミュニケーション
地域住民に対して、風力発電のメリットや環境への影響について十分な説明を行い、理解を得ることが重要で、事前の協議や参加型のプロジェクト設計が求められる。
対策2:地域経済への利益還元
風力発電によって得られた利益を、地域経済に還元する仕組み(例えば、雇用創出や電力料金の低減)を整えることで、地域住民の支持を得やすくなる。
5.風力発電の発電量について
風力発電の効率は、風速の3乗に比例するため、風の強さが重要であるり、例えば、風速が2倍になると発電量は8倍になるのだとか。
小型風力発電機は1kW程度、大型の風力タービンは数メガワット(MW)の電力を生成することが可能とのこと。
海上風力発電は、特に風が強く、1基あたり15MW以上の発電量を誇るものもあるのだそう。
6.今後の風力発電の展望
政府は、2050年カーボンニュートラルの実現のため、洋上風力発電の導入を加速させるとしており、2030年までに1,000万kW、2040年までには3,000万〜4,500万kWの導入を目標としている。
出典元:国土交通省 港湾局 2050年カーボンニュートラルに資する洋上風力発電の導入促進に向けた取組
6.1 風力発電:今後の技術の進展について
日本の風力発電は、再生可能エネルギーの主要な柱として期待されているが、現状では政府が掲げる目標と実際の進展には大きな乖離がある。
このギャップを埋めるためには、さまざまな取り組みや、政策の強化が必要である。
日本における風力発電の現状と政府目標、そしてこのギャップを補完するための具体的な方策は、以下の通り。
(1)日本の風力発電の現状
導入量:
日本は、風力資源が豊富であるにもかかわらず、陸上風力発電の導入は他国に比べて遅れている。
2023年時点での総発電容量は、数ギガワットにとどまり、世界の風力発電ランキングでは、上位に位置していない。
洋上風力発電の遅れ:
日本の地形的条件や、海洋技術の潜在力を考えると、洋上風力発電が有望視されているが、設置までに長期間かかる規制や、環境アセスメントの手続き、地域住民の反対などで、進展が遅れている。
(2)政府の風力発電目標
目標数値:
日本政府は、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目標としており、再生可能エネルギーの比率を、大幅に引き上げる計画である。
具体的には、2030年までに風力発電の導入量を約10ギガワット、さらに2040年には30〜45ギガワットに拡大する目標を掲げている(特に洋上風力が中心)。
洋上風力発電の推進:
政府は、2040年までに洋上風力発電の導入量を30〜45ギガワットまで増やすことを目標にしている。
(3)目標と現状のギャップを補完するための対策
1)風力発電の「規制緩和と手続きの迅速化」
環境アセスメントの合理化:
風力発電の建設には、環境アセスメントが必要であるが、これには長期間を要する。
この手続きを合理化し、かつ環境への影響を最小限に抑えながらも迅速に進めるための仕組み作りが重要である。
行政手続きの簡素化:
許認可のプロセスを一元化し、風力発電プロジェクトをスムーズに開始できる体制を整えることが必要である。
これにより、プロジェクトの準備期間が、大幅に短縮される。
2)風力発電の「技術革新と国内生産の強化」
浮体式風力発電の技術開発:
日本は海岸線が長く、深海に面しているため、浮体式洋上風力発電が非常に有効である。
技術革新を進め、浮体式の風力発電設備のコストを削減し、大規模な導入を可能にすることが重要である。
国内サプライチェーンの整備:
風力発電の設備や部品の多くを、海外に依存している現状を改善するため、国内での製造能力を高め、コスト削減と雇用創出を図ることが必要である。
3)風力発電の「地域との共存・利益共有」
地域住民との合意形成:
風力発電プロジェクトが進まない要因の一つに、地域住民の反対がある。
風車の設置による騒音や、景観問題を懸念する声に対し、透明な情報提供と合意形成を進めることが重要である。
また、風力発電による利益を地域に還元し、地域経済への貢献を明確にすることで、住民の支持を得やすくする。
地域協力型の風力発電:
地域と協力して運営する、協同組合型の風力発電プロジェクトや、地元企業との連携によるプロジェクトは、地域住民にとってより受け入れられやすくなる。
4)風力発電の「コスト削減と投資促進」
大規模プロジェクトによる規模の経済の活用:
風力発電のコストは、規模の経済により削減が期待される。
大規模な風力発電プロジェクトを進めることで、設置コストやメンテナンスコストを大幅に削減できる可能性がある。
官民パートナーシップ:
政府と民間企業が協力しプロジェクトを推進する、官民パートナーシップ(PPP)を拡大し、風力発電の普及を促進する必要がある。
また、インフラ投資ファンドやグリーンボンドを通じた資金調達の拡大も重要である。
5)風力発電の「新しい活用方法」
ハイブリッド型の再生可能エネルギー:
風力発電を他の再生可能エネルギー(例:太陽光発電やバイオマス)と組み合わせ、季節や気候条件に応じてエネルギー源を最適に活用する「ハイブリッド型発電所」の構築も検討されている。
これにより、発電量の変動を補い、安定した電力供給を実現できる。
(4)結論: 風力発電の「政府目標に向けた展望と課題解決の重要性」
日本における風力発電の拡大は、再生可能エネルギー推進における重要な柱であるが、現状では政府目標との間に大きなギャップがあり、これを埋めるためには技術革新、規制改革、地域住民との協力、コスト削減策など、多岐にわたる取り組みが必要である。
政府と民間が一体となって、これらの課題に取り組むことで、日本の風力発電は2030年および2040年の目標達成に向けて、前進していくことができるだろう。
まとめ:風力発電の「未来への展望」
風力発電は、地球温暖化対策とエネルギー自給率向上のために、注目されている再生可能エネルギーの一つであり、特に日本においては、洋上風力発電がその発展の鍵を握っている。
政府は、2040年までに、洋上風力発電の導入量を「30〜45ギガワット」に拡大する目標を掲げ、カーボンニュートラルの達成に向けた取り組みを進めている。
しかし、風力発電の普及には、風の不安定性やコスト、景観・騒音問題といった、多くの課題が存在する。
これらの問題を解決しつつ、風力発電の可能性を、最大限に引き出すためには、「技術革新」や「規制改革」、「地域住民との協力」が欠かせない。
特に洋上風力発電は、広大な海域を利用できることから、陸上風力に比べて、大規模な発電が可能であり、風速が安定して強い、という利点がある。
また、人口密集地から離れた、海上に設置することで、景観や騒音の問題も軽減される。
さらに、浮体式風力発電技術の開発により、より深い海域での設置が可能になり、導入エリアが広がることも期待されている。
一方で、垂直軸風力発電機(VAWT)も注目されており、その独自の利点から、特定の用途や場所での利用が増える可能性があるのだ。
従来の風力発電機は、水平軸型が主流だが、垂直軸型は、風向きに関係なく稼働できるため、都市部や風が不規則な場所でも、効果的に発電できるという特長がある。
また、垂直軸風力発電機(VAWT)は、騒音が少なく、低い高さに設置できるため、ビルの屋上や住宅地近くでも利用しやすいという利点もある。
垂直軸風力発電機(VAWT)には、いくつかの種類があり、代表的なものには「ダリウス型」、「サボニウス型」、「S型ローター型」などがある。
ダリウス型は、高速で回転し、発電効率が高い一方で、起動時に補助電力が必要になることが課題である。
サボニウス型は、低速でも回転でき、シンプルな構造が特長だが、発電効率がやや低い傾向がある。
S型ローター型は、軽量でありながら、効率的に風を捉えることができ、小規模な発電システムに適している。
これらの垂直軸風力発電機(VAWT)は、場所を選ばず設置できることから、都市部や個人住宅、さらには離島など特定のニーズに応じた、エネルギー供給に貢献できる可能性がある。
日本では、風力発電全体の普及が遅れている背景に、規制や手続きの複雑さ、地域住民の反対、そして高コストといった問題があった。
しかし、これらの課題に対応するために、政府は、規制緩和や手続きの簡素化、補助金制度の拡充を進めている。
また、技術革新によるコスト削減や、風力発電の利益を地域に還元する取り組みも必要である。
垂直軸風力発電機(VAWT)の導入も、こうした課題を補完する、一つの解決策として検討されるべきであろう。
風力発電は、再生可能エネルギーとしての、持続可能な未来に向けた重要な選択肢である。
特に、日本の地理的条件を最大限に活用し、陸上・洋上の風力発電を効果的に組み合わせることで、エネルギーの安定供給と、環境負荷の軽減を実現できる。
垂直軸風力発電機(VAWT)のような新しい技術も活用し、多様な設置環境での導入を進めることが、日本のエネルギー政策の、成功につながるのではないか。