10月から、食料品と飲み物など、2911品目の商品が、値上げされるとの報道がありました。
マスコミは、こぞって値上げを大々的に報道し、「インフレ」のデメリットを伝えています。
値上げに関するマスコミの報道に対して、私たち消費者は、複雑な感情を抱いてしまいます。
とはいえ、一方で、生活必需品の値上げが、家計に直接的な影響を与えることは、無視できないので、私たち消費者の不安を取り上げることは、理解できます。
特に、日本では、長い間「デフレ」が続いていたので、「デフレマインド」がしみついているのも確かであり、値上げに対する反発や不安が強くなるのは当然でしょう。
しかし、マスコミが、「インフレ」のデメリットばかりを強調しすぎる点には、疑問を感じてしまうのです。
「インフレ」自体は、「経済成長」や「賃金上昇」と密接に関連しており、過度に悪者視するのはバランスを欠いている、と言わざる負えないでしょう。
また、物価上昇を単純に消費者負担として捉えるだけでなく、なぜ企業が値上げを余儀なくされるのか、その背景にある、「エネルギーコスト」や「原材料の高騰」といった、構造的な要因についても、報道すべきでは無いでしょうか。
「インフレ」を一面的に伝えるだけでは、経済に対する誤解や、過剰な不安を煽ることにつながりかねません。
ここでは、このような状況から、「インフレ」による物価上昇に対し、私たち消費者の意識が、この状況に追い付いていけるのか、見ていきたいと思います。
1.「インフレ」と「デフレ」はどう違う?メリット・デメリット
「インフレ(インフレーション)」と「デフレ(デフレーション)」は、物価の動きに関する経済現象で、以下のような違いがありますが、バランスの取れた適度な「インフレ」が、健全な経済成長をするためには、必要とされているとのことです。
1.1 【インフレ(インフレーション)】の定義とメリット・デメリット
「インフレ」の定義
「インフレ」とは、物価が全体的に持続的に上昇する現象です。
商品やサービスの価格が上がると、お金の価値が相対的に下がることになります。
「インフレ」のメリット
- 経済成長の促進:適度な「インフレ」は、企業の売り上げや利益が増え、投資や雇用が活発化するため、経済成長を促進します。
- デフレ脱却:「デフレ」が続くと企業の利益が減り、投資や雇用が停滞しますが、「インフレ」によって、この悪循環を断ち切ることができます。
- 債務負担の軽減:「インフレ」が進むと、お金の価値が下がるため、実質的な借金の価値も下がり、債務者にとって有利になります。
※「インフレが進むとお金の価値が下がる」というのは、同じお金で購入できる商品やサービスの量が減るということになります。具体的には、「インフレ」が進行すると、物価が上昇するため、以前は例えば1,000円で購入できたものが、「インフレ」の結果、1,100円や1,200円必要になるという現象が起こります。これを「お金の価値が下がる」と言います。
「インフレ」のデメリット
- 購買力の低下:物価が上がると、給与が追いつかない限り、消費者の購買力が減少し、生活費の負担が増加します。
- 資産格差の拡大:「インフレ」の影響で、資産を持つ人(不動産や株式などの所有者)は利益を得る一方、資産を持たない人々は、苦しい状況に陥ることがあります。
- 過剰なインフレ(ハイパーインフレ)のリスク:「インフレ」が制御不能になると、経済が混乱し、社会不安や通貨の信頼低下を引き起こす可能性があるとのことです。
※「インフレ」は、経済成長を促進する一方、急激な物価上昇は、生活費の負担を増やすリスクがあると言われています。
1.2 【デフレ(デフレーション)】の定義とメリット・デメリット
「デフレ」の定義
「デフレ」とは、物価が全体的に持続的に下落する現象です。
物価が下がると、お金の価値が上がり、同じ金額でより多くの商品やサービスを購入できるようになります。
「デフレ」のメリット
- 購買力の向上:物価が下がるため、私たち消費者は、同じ収入でより多くの物を買えるようになり、生活費が軽減されます。
- 貯蓄の価値が増す:「デフレ」下では、お金の価値が高まるため、貯蓄が実質的に増えることになります。
「デフレ」のデメリット
- 経済の停滞:物価が下がり続けると、企業の売り上げや利益が減少し、投資や賃金が抑制され、失業が増加する可能性があるとのことです。
- 債務負担の増加:「デフレ」では、借金の実質的な負担が増え、特に大きな借金を抱える企業や政府は、厳しい状況に直面します。
- 消費の減少:物価が下がると、「もっと安くなるかもしれない」と消費者が購入を先送りし、経済活動がさらに縮小するという、悪循環に陥ることがあるとのことです。
※「デフレ」は、一時的に消費者に有利な影響を与えることもありますが、長期的には、経済の停滞を引き起こし、特に企業や政府にとって、大きなマイナス要因となるとのことです。
2.「インフレ目標2%」は、健全か?
「インフレ目標2%」は、多くの先進国で採用されている経済政策であり、健全とされる理由がありますが、同時にいくつかの課題やリスクもあるそうです。
下記の表は、内閣府による各国の「インフレ目標」とされるものです。
引用元:内閣府ホームページ 付表1-2各国のインフレ目標
以下で、その健全性について考えられる、メリットとデメリットです。
2.1 「インフレ目標2%」の背景と目的
日本をはじめとする多くの国では、「デフレ」や低インフレが、長期的に経済成長を妨げることが懸念されてきました。
「インフレ目標2%」は、物価が緩やかに上昇しつつ、経済成長を促すために、設定されているそうです。
これは、急激なインフレ(ハイパーインフレ)を防ぎながら、「デフレ」のリスクを回避するための、バランスを取った目標とのことです。
「インフレ目標2%」のメリット
- 経済の安定成長を促進 :「インフレ」がゼロに近い、あるいはマイナスの場合、企業は利益が上がりにくく、投資や賃金上昇が停滞するとのことです。2%のインフレ率を目標とすることで、企業の利益が増え、投資や雇用が拡大しやすくなり、経済成長を支える力となるとのことです。
- デフレの防止:「デフレ」は、物価が下がり続ける現象で、企業の利益減少や消費者の支出減少を引き起こし、長期的に経済を停滞させる要因になります。2%のインフレ目標を維持することで、「デフレ」の悪影響を回避し、経済の健全な循環を保つことができるとのことです。
- 安定した予想:インフレ目標が明確に設定されることで、消費者や企業は、物価上昇のペースをある程度予測できます。これにより、企業は将来の計画を立てやすく、私たち消費者も長期的な買い物や投資に対して、安心感を持つことができるとのことです。
デメリットや課題
- 目標達成の難しさ :日本では、長期的にデフレに苦しんできたため、2%のインフレ目標に到達するのが難しい状況が続いています。景気や消費者心理の変化、賃金上昇の鈍化などが影響し、「インフレ」が思うように進まないこともあるとのことです。
- 賃金上昇が伴わない場合のリスク:「インフレ」が進んでも、同時に賃金が上がらなければ、私たち消費者の生活コストが増加するだけで、家計への負担が増します。物価が上昇しても賃金が停滞すれば、消費が減退し、経済全体に負の影響を及ぼす可能性があるということです。
- 金融緩和政策の副作用:インフレ目標を達成するために、中央銀行が大規模な金融緩和を行うことが多いですが、これには副作用もあるとのことです。例えば、金融市場に過剰な資金が流入し、資産バブルを引き起こすリスクがあるということです。また、金利が低くなることで、銀行や年金の収益が悪化し、長期的な影響が出る可能性があるとのことです。
まとめ:健全なインフレ目標か?
「インフレ目標2%」は、経済を安定させるための理論的に健全な目標ですが、実行の難しさや賃金上昇とのバランスが重要とのことです。
「インフレ」だけが進んで、生活コストが上がる一方、賃金が追いつかなければ、私たち消費者の不満や経済の停滞が、引き起こされるリスクも考えられます。
適度な「インフレ」を維持しつつ、経済全体でバランスの取れた成長を目指すことが、最も重要な要素のようです。
3.少しの値上げで消費者が不安を感じる理由
少しの値上げで、私たち消費者が不安を感じる理由は、いくつかの心理的・経済的要因が絡み合っています。
その主要な理由は、以下の様に考えられます。
3.1 賃金の停滞
多くの私たちの様な消費者は、物価が上がっても、自分の収入がそれに追いつかないと感じています。
特に日本では、長期間にわたり賃金が伸び悩んでおり、物価の上昇が、直接的に生活コストの増加に繋がります。
収入が増えないまま値上げが続けば、家計の負担が大きくなり、不安を感じるのは当然と言えます。
3.2 生活必需品の値上げ
少しの値上げが、特に生活必需品(食料品、日用品、エネルギーなど)に及ぶと、私たち消費者は、日々の生活に直結するコスト増を、強く実感します。
これらの支出は、避けられないため、他の消費を抑えざるを得なくなり、将来の生活に対する不安が増します。
3.3 値上げが続くのではという予想
一度値上げが始まると、「この先さらに上がるのではないか」という不安が、私たちの消費者心理に影響を与えます。
値上げが断続的に続くと、「インフレ」が加速するのではないかと心配になり、経済に対する全体的な信頼感が低下します。
3.4 固定費への影響
家賃や保険料、教育費などの固定費がすでに高く、そこに加えて、食品やエネルギーなどの変動費が上がると、全体の支出が予算を超えやすくなります。
これにより、家計のやりくりが厳しくなり、不安が高まります。
3.5 メディアの影響
メディアが、値上げに関するニュースを大々的に報じると、私たち消費者の不安が増幅されます。
特に、日々の生活に関連する商品が値上げされると、メディアは、その影響をセンセーショナルに伝えることがあり、それが私たち消費者の不安を煽る要因となります。
3.6 将来への不確実性
少しの値上げであっても、私たち消費者が、将来の経済や自分の生活に対する不確実性を強く感じると、不安が膨らみます。
例えば、経済が悪化し、職を失うかもしれない、医療や教育の費用が増えるかもしれないという懸念があると、現在の値上げが、より深刻な問題として認識されやすくなります。
3.7 「デフレマインド」からの脱却の難しさ
日本では、長期間にわたり「デフレ」が続いたため、「物価は下がるのが当たり前」という感覚が根付いている消費者も多いのです。
そのため、少しでも値上がりすると「本来下がるべきではないか?」という感覚で、値上げを特に敏感に捉えてしまいます。
3.8 値上げに対する実感の強さ
物価が1~2%上がっただけでも、スーパーでの買い物など、日常生活の中で直接体感できるため、私たち消費者は、値上げを身近に感じやすいのです。
この「実感の強さ」が心理的な不安を引き起こします。
わずかな値上げでも、毎日の生活に直結するため、それが積み重なると、大きな負担に感じることがあります。
3.9 結論
少しの値上げで、私たち消費者が不安を感じる理由は、賃金の停滞や生活必需品の値上げ、メディアの報道、そして将来の不確実性などが、絡み合っています。
これに加えて、「デフレ慣れ」した私たち消費者は、値上げに対して敏感であり、経済に対する不安を強く感じやすい状況が続いています。
4 消費者は「インフレ」を理解しているか?
私たち消費者が「インフレ」をどの程度理解しているかは、地域や経済状況などによって異なりますが、全体的に見ると、多くの消費者は「インフレ」の基本的な概念を理解していても、その詳細や経済全体への影響までは、十分に理解していない場合が多いです。
私たち消費者が、「インフレを理解しているかどうか」に関するポイントは、以下の通りです。
4.1 基本的な理解はあるが、深い理解は不足している
多くの消費者は、「インフレ=物価上昇」という表面的な理解は、していると思います。
価格が上がることが、生活費に直結するため、「インフレ」が、自分の購買力に与える影響を実感しています。
しかし、「インフレ」の背後にある経済メカニズム(例えば、なぜ中央銀行がインフレ目標を設定するのか、どうやってインフレがコントロールされるのか)については、理解が浅い場合が多いでしょう。
4.2 「インフレ」のメリットに対する認識が低い
「インフレ」は、賃金上昇や経済成長につながる可能性があるため、必ずしも悪いことではありません。
しかし、多くの私たちの様な消費者は、「インフレ」を「生活費が上がる」という、負の側面で捉える傾向があります。
「インフレ」が企業の利益や投資、雇用創出に寄与するといった、ポジティブな側面を理解していないため、物価上昇に対して、過剰に不安を抱くことが多い様です。
4.3 デフレ慣れが影響
日本では、長期的に「デフレ」や低インフレが続いてきたため、私たち消費者の間には「物価はできるだけ安い方が良い」という考え方が根強くあります。
デフレ時代においては、物価が下がることが、私たち消費者にとって利益と感じられたため、「インフレ」が必要であるという、経済政策の意図を理解するのが難しい状況です。
4.4 メディアによるインフレ報道の影響
メディアは、しばしば「インフレ」をセンセーショナルに報道し、特に生活必需品の値上がりを強調します。
この結果、私たち消費者は「インフレ」のマイナス面に、焦点を当てやすくなります。
私たち消費者が、「インフレ」の背景や経済へのプラスの影響を、理解する機会が少ないので、報道が、消費者の「インフレ」理解に、悪影響を及ぼしている可能性があります。
4.5 賃金上昇とインフレの関係を理解していない
「インフレ」は、賃金上昇と連動していくことが理想とされていますが、私たちの様な消費者の多くは、この関係性を理解していないと言うよりは、「実感できていない」のかもしれません。
特に、日本では、賃金上昇が「インフレ」に追いつかない、という現実があるため、私たち消費者は、「インフレ」に対して「生活費が上がるだけで、自分の収入は変わらない」という認識を持つことが、多いのではないでしょうか。
4.6 経済的なリテラシーの影響
経済的なリテラシー(経済についての知識や理解力)が高い人々は、「インフレ」の影響や政策の意図を、理解しやすい傾向にありますが、一般の消費者の中には、経済の専門知識が不足している人も、多くいるとのことです。
これにより、「インフレ」の現象を単純に「悪いこと」と捉えやすく、複雑な経済政策の意図を理解することが、難しいと感じることがあるとのことです。
4.7 将来の不確実性とインフレの結びつき
私たち消費者は、将来の不確実性を強く感じると、「インフレ」に対して過剰に不安を抱くことがあります。
例えば、物価上昇が続けば、自分の収入や貯蓄が不足するのではないか、という不安が強くなり、「インフレ」に対する理解を冷静に持つことが難しくなる場合があります。
4.8 結論
私たち消費者は、「インフレ」について基本的な理解を持っている一方で、深い経済的理解や「インフレ」のメリットを、十分に理解していないことが多い様です。
メディアの影響や「デフレ慣れ」も、「インフレ」に対する不安感を、助長していると思われます。
したがって、私たち消費者が「インフレ」に対する理解を深めるためには、教育や情報提供の充実が、重要になるでしょう。
5.まとめ
私たち消費者も、「インフレ」を望みつつ、なぜ値上げに文句が出るのかは、消費者心理が複雑に絡んでいる事が分かりました。
「インフレ」は、適度であれば、賃金上昇や経済成長を伴う健全な現象とされますが、多くの消費者は、賃金が物価上昇に追いつかない現状に、不安を感じています。
長年デフレが続いた日本では、「物価は低い方が良い」という心理が根付き、物価高騰は直ちに家計負担と捉えられやすく、値上げに反発するのは自然な流れです。
さらに、日常生活に欠かせない食品や飲料の値上げは、私たち消費者にとって、即座に実感できるため、「インフレ」が「生活を苦しくする要因」として強調されやすいのです。
メディアも、この不安を煽るように報道するため、私たち消費者は、値上げに対して敏感になってしまいます。
「インフレ」による「長期的な経済成長のメリット」よりも、「短期的な家計への影響」が優先されるため、私たち消費者は「矛盾した心理状態」に陥り、「インフレ」を期待しつつも、実際の値上げに対しては、強い反感を持つようです。