「代替肉」は、我々消費者の健康意識の高まりや地球環境への関心の高まりにより注目を浴び、ここ数年、市場が急速に拡大しているとのことだ。
「代替肉」は、日本でもSDGs(国連の「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」)などと絡めて話題となっていて、日本の代替肉市場は、着実に成長し拡大を続けているという。
人類は、今後ますます健康や環境に対して意識が強くなると共に、いかに「効果的に」「簡単に」しかも「美味しく」エネルギーを摂取することが出来るか、を追求する生き物であることから、「代替肉」の需要は今後も急速に高まっていくだろう。
ここでは、そんな「代替肉」の効果や可能性と日本メーカーの挑戦について見ていきたい。
代替肉とは
「代替肉(プラントベースミート)」とは、主に植物由来の原材料(大豆、エンドウ豆、そら豆、小麦など)から作られた「肉に似せて作った食べ物」のことで、これらで作られた「代替肉」は、「大豆ミート」や「ソイミート」「フェイクミート」などとも呼ばれている。
最近では、食品加工技術の発達により、豆類や小麦たんぱくなどを主原料としたものが次々誕生しており、ファーストフード店などでも「代替肉」を使ったハンバーガーが気軽に食べられるようになり、日本でも徐々に浸透してきているという。
代替肉の類型
「代替肉」は、大別すると「大豆などの植物由来の肉」と、「培養技術を用いた培養肉」に分けられるが、培養肉は試験段階であり、培養肉の販売認可を取得しているのはアメリカ合衆国とイスラエルの「3社」だけとのこと。
これに加えて、「微生物によるタンパク質の生産」も試みられているとのこと。
植物由来といっても原材料に動物性由来の材料を含む商品もあるため、完全菜食主義(ビィーガン)には、対応していないものもあるようだ。
これは、「脱ミート」の中にも、消費者の意識レベルの違いがあり、「脱ミート」の動きは、「ヴィーガン」といわれる動物性タンパク質を一切摂取しないという完全菜食主義者が中心だったが、健康志向や動物愛護、環境問題への関心の高まりにより、「代替肉」を購入したいという人たちが、広がってきているという。
「代替肉」は、伝統的な動物由来の肉に代わる食品として開発されているもので、主に以下の三つの類型に分類される。
1.植物由来の代替肉
植物由来の肉の原材料は、大豆のほか小麦、エンドウ豆、ソラマメ、などがあるが量が少なく、大豆が多くをしめるので、「大豆ミート(ソイミート)」と呼ばれることが多く、小麦の場合もあるのでその場合は、「グルテンミート」ともいう。
主原料及び特徴
- 原材料: 大豆、エンドウ豆、小麦などの植物性タンパク質
- 特徴: 高タンパク、低脂肪、低コレステロール。植物性のため、ベジタリアンやビーガンでも摂取可能。
- 企業例: ビヨンド・ミート、インポッシブル・フーズ
- 環境負荷: 畜産業に比べて温室効果ガスの排出が少なく、水や土地の使用量も大幅に削減できる。例えば、ビヨンド・バーガーは、牛肉バーガーに比べて99%の水、93%の土地、90%の温室効果ガスを削減できるとされている。
2.細胞培養肉(培養肉)
「培養肉」とは、動物の細胞から作った人工肉のことで、研究室や工場で作られるため、「培養肉」は動物の細胞から生まれる「本物の肉」である。
「培養肉」の正式名称は、細胞性食肉(もしくは細胞性食肉加工食品)というそうだが、その技術はまだ開発途上であり、日本を含め多くの国では、まだ一般販売が認められていないが、アメリカ・カリフォルニア州で培養肉の開発・販売を行っているスタートアップ企業「グッド・ミート」は、ニワトリの細胞を増やして作った「培養肉のチキン」の販売が2023年6月、アメリカで初めて承認されたと報道があった。
2024年1月現在、培養肉の販売認可を取得しているのはGOOD Meat(グッド・ミート:シンガポール共和国・アメリカが合衆国で認可取得)、UPSIDE Foods(アップサイド・フーズ:アメリカが合衆国で認可取得)、Aleph Farms(アレフ・ファームズ:イスラエルで認可取得)の「3社だけ」とのこと。
主原料及び特徴
- 原材料: 動物の細胞を培養して作られる
- 特徴: 動物を殺さずに肉を生産できるため、倫理的問題を解決。栄養成分は通常の肉とほぼ同じ。
- 企業例: グッド・ミート、アップサイド・フーズ、アレフ・ファームズ
- 環境負荷: 現在のところ、研究段階にあるため正確なデータは少ないが、理論的には従来の畜産よりも環境負荷が低いとされている。ただし、エネルギー消費が大きいという課題も指摘されている。
3.発酵由来の代替肉
微生物によるタンパク質生産には「精密発酵」といわれる、微生物に特定のタンパク質を生産させる方法と、「バイオマス発酵」という菌類をタンパク資源として培養生産する方法があるとのこと。
「精密発酵」では、微生物に作りたい成分の遺伝子を挿入し、生産工場になるようにプログラム、特定のタンパク質や酵素、フレーバー分子、ビタミン、色素、脂肪を効率的に生産することが可能とのこと。
「バイオマス発酵」では、この方法は菌糸自体を代替タンパク質の成分とし、増殖させて生成されたものを「マイコプロテイン」と呼び、タンパク質とともに繊維質も豊富で低脂質なことが特徴とのこと。
主原料及び特徴
- 原材料: 微生物(酵母や菌類)を利用してタンパク質を生成
- 特徴: 高効率でタンパク質を生成可能。栄養価が高く、食感や味の改良が容易。
- 企業例: 「精密発酵」:パーフェクト・デイ「バイオマス発酵」:クオーン、ミーティーフーズ、 マイコテクノロジー、プライムルーツ
- 環境負荷: 植物由来の代替肉と同様に、畜産業に比べて温室効果ガスの排出が少なく、水や土地の使用量も削減可能。
環境負荷の比較
従来の畜産業は、以下のような環境負荷が大きいとされている。
- 温室効果ガスの排出: 畜産業は、メタン、二酸化炭素、亜酸化窒素などの温室効果ガスを大量に排出する。
- 土地利用: 家畜の飼育や飼料作物の栽培には広大な土地が必要。
- 水資源の消費: 肉を生産するためには大量の水が必要。
- 森林破壊: 牧草地や飼料作物の栽培のために、森林が伐採されることが多い。
一方、「代替肉」の生産は、これらの環境負荷を大幅に削減できる可能性があり、特に「植物由来の代替肉」は、畜産業に比べてはるかに環境に優しいとされている。
引用元:ヘルシスト 新たな選択肢になり得る!? 麴菌そのものを食べる代替肉
代替肉のメリットとデメリット
代替肉は、持続可能な食料供給の一環として重要な役割を果たす可能性があるが、その普及には技術的な進歩、コストの削減、消費者の受け入れ、規制の整備が不可欠で、代替肉市場での成長を後押しするキーワードが「環境」と「健康」だ。
【代替肉のメリット】
- 環境負荷の低減
- 温室効果ガス排出の削減: 代替肉は従来の畜産に比べて温室効果ガスの排出が少なく、植物由来の代替肉は特に環境に優しいとされている。
- 資源の効率的利用: 代替肉は、畜産に比べて土地や水の使用量が少ないため、資源の効率的利用が可能。
- 健康面での利点
- 低脂肪・低コレステロール: 多くの代替肉は動物性脂肪やコレステロールを含まず、健康に良いとされている。
- 高タンパク質: 植物由来や発酵由来の代替肉は、動物性タンパク質と同等かそれ以上のタンパク質を含んでいる。
- 動物福祉
- 動物の犠牲を減らす: 代替肉の生産は動物の犠牲を減らし、倫理的な問題を解決できる。
【代替肉のデメリット】
- 味と食感
- 従来の肉と異なる場合がある: 一部の消費者は、代替肉の味や食感が従来の肉と異なると感じることがあり、これが受け入れの障壁となる場合がある。
- 価格
- 高価格: 現在のところ、代替肉は従来の肉に比べて高価で、生産コストが高いため、普及には価格の引き下げが必要。
- 栄養バランス:
- 添加物の問題: 代替肉には、味や食感を向上させるために多くの添加物が使用されている場合があり、これが健康に対する懸念を引き起こすことがある。
【代替肉の現状】
- 市場の成長
- 市場規模の拡大: 代替肉市場は急速に成長しており、特に北米やヨーロッパでの需要が高まっていて、多くの企業がこの分野に参入し、新しい製品が続々と登場している。
- 消費者の関心: 環境問題や健康志向の高まりにより、代替肉への関心が高まっていて、ベジタリアンやビーガンだけでなく、一般の消費者にも広がっている。
- 技術革新
- 新しい技術の導入: 細胞培養技術や発酵技術の進歩により、よりリアルな肉の食感や味を実現する取り組みが進んでいる。
【代替肉の課題】
- コストの削減
- 生産コスト: 代替肉の生産コストはまだ高く、大量生産によるコスト削減が必要。
- 消費者受け入れ
- 味と食感の改善: 消費者が従来の肉と同等かそれ以上の味や食感を求めるため、これを満たす製品開発が重要。
- 教育と啓発: 代替肉の利点や健康面でのメリットを消費者に理解してもらうための教育と啓発が必要。
- 規制と安全性
- 食品安全: 新しい技術を用いた代替肉の安全性を確保するための規制が必要で、細胞培養肉などは特に新しい分野であるため、規制当局との連携が重要。
- 持続可能な生産
- 環境への配慮: 生産プロセス自体が持続可能であることを確認し、長期的な視点で環境負荷を最小限に抑える取り組みが必要。
【代替肉の可能性】
- 持続可能な食料供給
- 人口増加に対応: 世界の人口が増加する中で、持続可能な食料供給の手段として代替肉は重要な役割を果たす可能性がある。
- 技術の進歩による改善
- 味と食感の向上: 技術の進歩により、従来の肉とほとんど変わらない味や食感を持つ代替肉の開発が期待されている。
- コストの低下: 大量生産技術や新しい生産方法の開発により、代替肉の価格が低下し、より多くの消費者に手が届くようになる可能性がある。
- 多様なタンパク源の提供
- 多様な食文化への対応: 代替肉は、多様な食文化や嗜好に対応した製品の開発が進んでおり、さまざまな料理に利用できる可能性がある。
- グローバルな普及
- 新興市場の開拓: 代替肉は、発展途上国や新興市場においても普及が期待されており、食料不足や栄養問題の解決に寄与する可能性がある。
日本における代替肉の開発メーカーの現状
日本における代替肉の開発は、環境問題への関心の高まりや健康志向の強化により進展しており、以下に、植物由来の代替肉、培養肉、発酵由来の代替肉に関する日本の主なメーカーを紹介しよう。
【植物由来の代替肉】
- 大塚食品株式会社
- 商品名: 「ゼロミート」
- 概要: 大豆を主原料としたハンバーグやミートボールなど。
- ネクストミーツ株式会社
- 商品名: 「Next Burger」「Next Mince」
- 概要: 大豆を基にしたハンバーガーパティやミンチ肉。
- マルコメ株式会社
- 商品名: 「大豆のお肉」
- 概要: 大豆を原料とした代替肉製品。
- 伊藤ハム株式会社
- 商品名: 「まるでお肉!シリーズ」
- 概要: 大豆を使用したソーセージやハム。
- K&K株式会社(国分グループ本社)
- 商品名: 「K&K プラントベースミート」
- 概要: 大豆を主成分とした缶詰タイプの代替肉製品。
- 不二製油グループ本社株式会社
- 商品名: 「大豆ミート」
- 概要: 植物由来の大豆タンパク質製品。
- 日清食品ホールディングス株式会社
- 商品名: 日清のプラントベースミート「謎肉」
- 概要: 植物由来のハンバーガーパティやミートボール。
- ハウス食品グループ本社株式会社
- 商品名: 「やさしくラクケア 低たんぱくミート」
- 概要: 大豆を使用した代替肉製品。
- DAIZ株式会社
- 商品名: 「ミラクルミート」「ミラクルエッグ」
- 概要: 大豆の発芽という生理現象を応用した技術により旨味や栄養価を増大させた代替肉製品。
- 株式会社かるなぁ
- 商品名: 「ウルトラビィーガンミート」
- 概要: 大豆を原料とした代替肉製品。
- グリーンカルチャー株式会社
- 商品名: 「Green’s Plant-based パティ」
- 概要: 大豆を原料とした代替肉製品。
【培養肉】
- 日本ハム株式会社
- 商品名: 未定(開発中)
- 概要: 培養肉の細胞を培養する際に必要となる「培養液」の研究開発。食品成分由来の培養液を用いた培養肉の研究開発。
- 日清食品ホールディングス株式会社
- 商品名: 未定(開発中)
- 概要: 培養肉の大量生産技術の研究開発。
- 藤森工業株式会社
- 商品名: 未定(開発中)
- 概要: 培養肉の原料となる細胞を安全に安定供給する大量培養技術の開発。
- 株式会社島津製作所
- 商品名: 未定(開発中)
- 概要: 3Dバイオプリント技術で筋肉・脂肪・血管の繊維をステーキ状に束ねる工程を自動化し、細胞培養用の培地の可食化やコストダウンの研究。
- TOPPANホールディングス株式会社
- 商品名: 未定(開発中)
- 概要: 細胞以外のバイオマテリアルの可食化と加工プロセスの開発。
- インテグリカルチャー株式会社
- 商品名: 未定(開発中)
- 概要: 細胞培養技術「CulNet® system」(以下、「カルネット システム」)を使った培養肉(細胞性食品)の製造におけるライフサイクル・アセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)(※1)を確立するための研究。
- ダイバースファーム株式会社
- 商品名: 未定(開発中)
- 概要: 培養肉の研究開発。
- 株式会社オルガノイドファーム
- 商品名: 未定(開発中)
- 概要:ミニ臓器を作る技術(=オルガノイド技術)を応用し、 本物により近い培養肉の研究開発。
【発酵由来の代替肉】
- 三菱ケミカルグループ株式会社
- 商品名: 麹肉
- 概要: 麹菌由来の代替タンパク質食品(代替肉)を提供するスタートアップである Prime Roots(本社:米国カリフォルニア州)に出資。
まとめ
植物由来の「代用」肉は、日本でもだいぶ前から我々も口にすることはよくあり、例えば、ダイエット目的でハンバーグの肉を「おから」「麩」で「代用」したり、豆腐を使ったとんかつやステーキなど、日本人は意外と大豆にはなじみが深いような気がする。
これはあくまでも肉の「代用」であり、「代替肉」ではないが、吾輩が思うには、そもそも、日本人は昔から植物性たんぱく質を摂取していて、肉食系の人種ではないので、「代替肉」への抵抗感が少ない人種ではないかと感じている。
この様に日本で状況を見れば、「植物由来の代替肉」に多くの企業が参入しており、様々な製品がすでに市場に出回っているが、「培養肉」はまだ研究段階であり、商業化を目指す企業が増えている状況で、「発酵由来の代替肉」も技術革新により注目されているので、今後の市場展開を期待したい。