最近よく見聞きする事柄に、「百貨店の閉店」という言葉がある。
例えば、2023年1月31日、56年続いた渋谷の東急百貨店本店が閉店し、東急グループは跡地に高級ホテル、マンションを中心とした複合施設を建設予定。
2020年3月、渋谷駅周辺では、東急百貨店東横店がに営業終了したほか、渋谷マルイが日本初の本格的な木造商業施設へと刷新(2026年開業予定)するため2022年8月から休業中。
2023年8月31日には、セブン&アイ・ホールディングスが傘下のそごう・西武を、米投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループに9月1日付で売却すると正式発表。
2019年秋に伊勢丹相模原店が閉店、2020年8月には高島屋港南台店が閉店、2021年2月には三越恵比寿店が閉店した。
さらに、コロナ禍以降、地方百貨店の経営破綻や閉館が相次いだ。
まず2020年1月、創業320年を誇った山形市の大沼が自己破産を申請。
その後、福島市の老舗百貨店・中合が2020年8月に閉店、そごう徳島店や西武大津店も閉店し、県庁所在地に百貨店がなくなる例が続いた。
この様に、人口減少が加速し高齢化が進み、市場の縮小に直面している百貨店において、これからどのようになっていくのか、その試金石となると思われる「ハラカド」について、従来の百貨店との違いを見ていきたい。
「ハラカド」とは?
「ハラカド」とは、2024年4月17日(水)に、原宿の神宮前交差点に新しくオープンした新商業施設で、東急プラザ原宿のこと。
立地
東急プラザ原宿「ハラカド」は、表参道と明治通りが交差する神宮前交差点の原宿側にあり、東京メトロ 明治神宮前(原宿)駅から徒歩1分、JR原宿駅からは徒歩4分だ。
これと同時に、対面に位置する「東急プラザ表参道原宿」は、先行して2012年にオープンしており、東急プラザ表参道原宿「オモカド」に改称した。
ルーツ
「ハラカド」のルーツは、初めは1958年(昭和33年)、米軍関係者など特別な人々を対象とした共同住宅(アパート)として完成した。
昭和30年代後半になると、アパートは上層階に事務所、下層階に店舗が入居するという形態になったことにより、このアパートには「文化創造の拠点」を目指す、カメラマン、コピーライター、イラストレーターなどのクリエーターが多数入居した。
ここに事務所を構えることが文化人のステータスとなり、新しい文化を生み出していたとのこと。
「ハラカド」では原宿セントラルアパートの文化を継承し、入居テナントによるクリエイティブコミュニティ「ハラカド町内会」が設立され、新しい文化を創造・発信する商業施設となる。
コンセプト
コンセプトは、「多様な人々の感性を刺激する、新たな原宿カルチャーの創造・体験の場」としている。
「ハラカド」は、このコンセプトを基に誕生する施設で、あらゆる方面に対し感度の高い”ヒト・モノ・コト”と「出会う」「つながる」「体験する」「楽しむ」を掛け合わせたコンテンツと、「ハラカド」のコンセプトに共感した個性豊かな飲食店など、全9フロアに75店舗が新登場した。
「ハラカド」施設概要
■ 施設概要
施設名称 東急プラザ原宿「ハラカド」
竣工 2023 年 8 月 31 日
開業 2024 年 4 月 17 日
所在地 東京都渋谷区神宮前六丁目 31 番 21 号
店舗数 75 店舗
営業時間 物販・サービス店舗 11:00~21:00
飲食店舗 11:00~23:00
※一部店舗は異なる
共同事業者 東京地下鉄株式会社
運営者 東急不動産株式会社
※東急不動産 SC マネジメント株式会社、東京地下鉄株式会社、株式会社コロンバン所有床含む
(同建物内に別途、渋谷区・株式会社邱プラン所有床あり)
施設公式 HP https://harakado.tokyu-plaza.com/
百貨店の衰退要因
百貨店の衰退は、世界中の多くの都市で観察されている現象で、その主な原因は多岐にわたるが、以下のような要因が挙げられる。
1.オンラインショッピングの台頭
インターネットとスマートフォンの普及により、消費者はいつでもどこでもショッピングができるようになったことで、Amazonや楽天などのオンラインプラットフォームが急成長し、消費者は物理的な店舗に行く必要がなくなった。
2.ショッピングモールとの競争
大型ショッピングモールが増え、これらの施設は多様な店舗、エンターテイメント、レストランを一箇所に集めることで、消費者にとって魅力的な選択肢となり、これにより伝統的な百貨店は顧客を奪われる結果となった。
3.消費者の購買行動の変化
消費者のライフスタイルや価値観が変わり、よりカジュアルで便利なショッピング体験を求めるようになった。
若い世代は特に、ブランドや高級品よりも、手頃な価格で多様な選択肢を提供する店舗を好む傾向がある。
4.経済的要因
景気の変動や所得の停滞も、百貨店の売り上げに影響を与えていて、特に高級品を扱う百貨店は、経済不安や消費者の支出削減の影響を受けやすい。
5.都市計画の変化
都市部の再開発や、人口の郊外移動などの都市計画の変化も、百貨店にとっては不利に働くことがあり、都市中心部にある大型百貨店は、郊外への顧客流出や、再開発による競争激化の影響を受けやすい。
6.百貨店の経営戦略の問題
一部の百貨店は、時代の変化に対応できず、古いビジネスモデルに固執し、これにより、顧客のニーズに応えられず、競争力を失う結果となった。
対策
百貨店が生き残るためには、以下のような戦略が求められる。
- オムニチャネル戦略: オンラインとオフラインの融合を図り、消費者に一貫したショッピング体験を提供する。
[対策例]オンラインで注文した商品を店舗で受け取るサービスや、店舗での体験をオンラインで共有する仕組みなど。 - 体験型店舗: 商品販売だけでなく、イベントやワークショップなど、消費者が直接体験できるサービスを提供する。
[対策例]イベントやワークショップ、試食会やデモンストレーションなど、顧客が直接参加できる活動を増やす。 - パーソナライズドサービス: 顧客の嗜好に合わせたパーソナライズドなサービスを強化する。
[対策例]顧客データを活用し、個々のニーズや嗜好に応じた提案やサービスを行うことで、顧客満足度を高める。 - 地域密着型の戦略:地元のニーズに応じた商品やサービスを提供することで、地域社会とのつながりを強化する。
[対策例]地元の特産品やアーティストとのコラボレーションなど、地域性を活かした展開。 - 持続可能な経営:環境に配慮した持続可能な取り組みを進めることで、エシカル消費を重視する消費者にアピールする。
[対策例]リサイクルやエコフレンドリーな商品ラインナップの強化、エネルギー効率の改善など。
「ハラカド」の従来の百貨店との違い
1.余裕を持ったテナントの配置
ファッションビルとはちょっと違い、従来の商業施設のように、ギッシリとテナントが入っていないので、75店舗が「地下1階から7階」までに入っているが、たくさんの店が所狭しと営業している感じはしない。
2.緑豊かなフロアの拡充
特徴は、緑化した屋上広場や立体街路などの緑豊かな空間で、建物の内部にも人々が集える場所、ほっと一息ついて憩える場所、ふと立ち止まって考える場所など、街並みを屋内に再現したかのような感覚がある。
「4階」の「ハラッパ」と呼ばれるスペースは、フロア全体がアートを展示する屋内広場となっていて、テナントは、京都の料亭「下鴨茶寮」と東京都墨田区のカフェ「私立珈琲小学校」が共同運営するセルフ式のカフェ「ハラカドカフェ」だけという、とても贅沢な空間の利用方法となっている。
その他、ハラッパには「太陽の焚火」と称する赤い巨大な球体、空気の微細な動きを可視化したモビールなど、自然をモチーフとしたアーティストたちの作品が並んでいる。
緑と空間の演出は、園芸家でありDAISHIZEN社長の齊藤太一氏が担当。
アートは「THE Chain Museum」のCEOである、遠山正道氏が統括している。
3.飲食フロアの工夫
5~6階は「原宿のまちの食堂」をテーマとした飲食フロア。
「5階」は、横丁のような雰囲気で店が軒を連ねるレストラン街で、原宿では少なかった、日常的に通いたくなる店を集めている。
「6階」は、「神宮前の交差点でゆったりしよう」をテーマに、緑豊かなテラス席を有し、開放的な屋上テラスとつながっているため、多人数でシェアできる料理やお酒などのドリンクを各店舗からテイクアウトして、自由にゆったりと過ごすことができるとのこと。
「7階」の上テラスは、神宮前交差点を望む開放的な空間となっていて、都心では希少な緑豊かな庭園空間で、多様な企業やブランドとのコラボレーションイベントが開催される予定とのこと。
飲食スペースは、この7階の屋上テラスを含めて23店が集積している。
4.銭湯「小杉湯」の出店
ハラカドの全テナント中、最もユニークといえるのは、地下1階にある銭湯「小杉湯原宿」だろう。
都会のど真ん中に「銭湯?」と思った人も多いのではないか。
なぜ、この地での銭湯オープンに至ったのかについて担当者は、「都心の商業施設が危機的状況を迎えるコロナ禍で、『毎日通いたくなるような機能を設けていきたい』」という思いから計画したという。
かつて原宿にあった銭湯は、文化を生み出すクリエイターたちの溜まり場となって愛されていたという背景も、決断の後押しとなったのだとか。
銭湯ブームの立役者でもある「小杉湯」が神宮前交差点に「街の銭湯」を作り、新たなライフスタイルの場を提供するという。
東京・高円寺にある「小杉湯」は、戦前の1933年に創業した老舗の銭湯で、建物は国登録有形文化財に登録されている。
小杉湯原宿の特徴
- 広さは高円寺店とほぼ同じで、男女でほぼ同じ大きさで浴槽3つ、洗い場9つ
- 高円寺店と同様に「ミルク風呂」を用意
- 熱湯と水風呂を交互に入る「温冷交互浴」
- サウナは設置無し
- 利用料金は通常の銭湯と同じ、520円(大人)
まとめ
この様に、東急プラザ原宿「ハラカド」は、これまでの百貨店の枠に捕らわれない新しい形態に変化した。
しかしながら、世の中は目まぐるしく生活様式が変化しているのも現実で、世の中の人のニーズに応えながら常に変化しなければ、他の百貨店の様に無くなってしまうのだろう。
日本で唯一といいて良いかもしれないが、オリエンタルランドのテーマパークは常に変化し、新しいものを取り込み、変化をし続けているので、長く続いているのではないかと思う。
改装工事は、お客さんのいない夜に行うものと思われているかもしれないが、その様なバックヤードの活動など、それすらもエンターテイメントとして、魅せるイベントとして何かできないものか、考えなければならない時期に来ているものかもしれない。